結局辛かったのは自分。
そう感じたのはシズちゃんを避けはじめてからたった一日でのこと。シズちゃんも自分が避けられている事に気付いたのか、俺と話すのもしなくなり、そして目も合わせてくれなくなった。はじめは大丈夫だと思ったんだ。こんなのも明日で終わるって。
だけど、もし明日になっても彼と話せなくなったらどうしようと思った。不安だけが残っていて酷く悲しい。でもこれで彼と会話してしまえば新羅たちが危ない。
今の俺は無力に近かった。
(話したい。シズちゃんの声が聞きたい)
早く明日になってくれるのを待つしか無かった。そうしたら解放されるんだから。
「…約束だ。今日で終わりだよね?」
次の日。待ちに待った解放の時間がやって来た。相手は余裕な表情で「そうだな」と言って笑った。
「シズちゃんは普通だったよ。少し辛そうな顔はしていたけど」
「そうか!ありがとう」
じゃあまた、なんて言いながら帰って行く彼を気に止めながらも教室に戻る。今日はシズちゃんを誘ってマックに行くんだから。
「やっほーシズちゃ……」
「……」
(……え?)
シズちゃんの席まで行くと、彼は何も言わずに席を立って俺から離れて行った。もう一度声をかけてもクラスの男子と話に夢中で気付いてくれない。
いきなり避けてたのに話しかけたからかな?そう思って次の休み時間に話しかけても、そのまた休み時間に声をかけても避けられてしまうだけだ。
「シズちゃんあのね…君を避けてたのは…」
理由を告げようとした俺を遮るように椅子が床と擦れる音がしたと思ったら、シズちゃんはスクールバックを手に教室を出て行ってしまった。
…どうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
俺が避けてたから、彼は自分が嫌われたかと思ってきっとまだ避けてるんだ。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…!
動機が嫌に激しい。
嫌われた、
シズちゃんに
嫌われた。
俺が
避けた
カラ、
シズちゃんに
嫌われた、
「…臨也?」
「…新羅、ドタチン。どうしよう……シズちゃんに嫌われちゃった、かも」
恋する乙女みたいな発言に、新羅とドタチンは顔を見合わせてから「何があったの?」という質問に、俺は素直に答えた。
「どうしよう。シズちゃん、話しかけても見向きもしてくんない。俺が避けてたから、今更図々しいって思ってるんだよ。このままじゃ一生…シズちゃんに声かけて貰えないよ…」
涙は出るし頭も顔もぐしゃぐしゃ。高校生にもなった男子がいいように大泣きして馬鹿みたいだ。
…でも俺にとっては大事件だ。
「臨也。あのさ…念の為に聞くけど静雄くんが好きなの?」
「は…?」
「今の会話からして、静雄くんと話せないのが辛いみたいな感じじゃないか」
「ああ。別に引かねぇから安心しろ」
――好き?
は?え?俺がシズちゃんを?
「……」
あ、でも言われてみたらそう…かも。いやでも、俺は人類を愛してるんだ。誰か特定なんて有りはしない。
俺はシズちゃんのこと…。
「…好き、」
頭では違うって分かってる。俺が愛するべきなのは人類だって警報している。
だけど口がそれを無視して言葉が溢れる。
「好き、好き…すきっ…」
人類だろ。
俺が愛してるのは、
俺が、愛してるの、は…
「シズちゃんが、すき」