※夫婦静臨
※「素直じゃないけど」の続き


「で。どういう事だ?臨也くんよぉ」

だいぶ大きくなったお腹を擦りながら、臨也が手にしたのはウィッグだった。それをどうするのかといえば自分に被せ、女の子になった。
またこれから情報屋の仕事をしに行くんじゃないのかと、目を細めながら問い詰めると、彼は暫し静雄を見てから何度も抱かれた逞しい腕を引っ張り外に飛び出した。

「おい?」
「……買いに行こ」
「あ?」

はじめが聞き取れ無かったのでもう一度問い詰めると、後ろからでも分かるぐらいに耳を真っ赤にさせて、

「服、とか買いに行こ」

と俯いた。

子供の服か、と瞬時に判断し静雄は臨也を支えるように歩き出した。
もうどっちかは分かっている。男の子なのだという。

「池袋は何でも揃ってるしな」
「…うん」
「あんま俺から離れるなよ」
「うん」

横に並んだ二人は手を絡め、池袋の街に飛び出した。




デパート前で、彼らの同級生である門田たちと会った。しかしながら静雄と臨也が結婚していて子供まで出来た。なんて新羅とセルティ以外はしらない。

「よう静雄」
「おう」
「お前、嫁出来たのか」
「ああ」
「かっわいー!このお腹の中には愛の結晶があるのよねぇ!」
「そーっすね!」

狩沢達は臨也を見て騒ぐと、門田が隣でやめろと一喝し、暫し二人は黙った。

「今更だが結婚おめでとう」
「ああ、あんがと」

臨也は喋ることが叶わないので、とりあえずお辞儀をすると門田は笑いながら臨也に話しかけた。

「コイツ、不器用だけどよ。根は良い奴だから安心して子供産めよ」

その言っている相手が男で彼の天敵だと言うことを知らずに話しかけた門田に、何だか悪い気がしてお辞儀をした。

用あるから、と門田たちと別れ再度手を繋ぐとまた歩き出す。そんな二人を見て、

「あれ。なんか奥さんの方…すっごいイザイザにみえるー」
「え!?臨也さんは無いっすよ!しかも男ですし!」
「俺も始めはそうかと思ったんだけどな…でもアイツらはあんな事できねぇよ」
「そうだよねー」
「そうっすよ!」

なんて話してたのは知らない。







「何かドタチンに悪い事した気がする」
「気のせいだ」
「シズちゃん死ね」
「あっそ」

手を繋ぎながらも罵声を紡ぐ臨也に最近静雄は分かって来た。これはただの照れ隠しなのだと。

「疲れた…」
「そりゃ重たい腹ありゃな。休むか?」
「うん」

近くにあったベンチに座ると誰もが自分達を見て通り過ぎる。それもそうだ。池袋最強に妊娠している妻が居るのだから。
また噂が広まるなあ…と考えながら臨也は空を見上げた。

「雨、降りそう」
「だな。買い物は次にすっか」

そう言った静雄は臨也を見ると何も言わないが手をきつく握りしめて来た。

(行きてぇってことか)

まあ半分まで来たのだ。帰りなら誰かに頼んで送って貰えば良いのだし、とりあえず今は買い物を楽しもうと二人は再び歩き出した。

「行くの?」
「行きてぇんだろ」
「死ねばか」
「はいはい」

バシバシと次に腕を叩かれたが静雄は平然と歩き出した。





















甘楽【きゃっほー!】
田中太郎【あ、お久しぶりです】
セットン【ばんわー】
罪歌【こんばんは】
甘楽【何話してたんですかぁ?】
セットン【いやいや】
セットン【もう大ニュースですよ!】
甘楽【えー?】
田中太郎【あの平和島静雄に】
田中太郎【奥さんが居たんです!】
甘楽【( ̄□ ̄;)!!】
セットン【しかも妊娠している!】
甘楽【とうとうですかあ!】
罪歌【わたし きょう みました】
甘楽【罪歌さん見たんですかぁ?いいなあ!私も見たかったですー】
田中太郎【今日、デパートで子供売り場見てたらしいですよ】
セットン【だいぶ大きいみたいですよね】
セットン【お腹】
甘楽【じゃあ、結婚してからだいぶ経ってる】
甘楽【て、感じですね!きゃッ!愛の結晶ってやつですねぇ!】
田中太郎【甘楽さんの愛の結晶は】
田中太郎【ミジンコ並ですか?】
甘楽【ひっどい!】
田中太郎【それにしても、池袋ではその奥さんが誰なのか。て噂で持ちきりですよ】
セットン【ええ】
セットン【意外と背が高かったらしいですよね】
罪歌【はい くろかみの ひとでした】
セットン【黒髪かあ】
田中太郎【いっぱいいますもんね】
甘楽【うじゃうじゃーってね】
セットン【何か表現違うww】
甘楽【あ、用事入ったんで今日はもう落ちまーす】
甘楽【ばいばいびー☆】
セットン【おやすー】
田中太郎【おやすみなさい】
罪歌【おやすみなさい】
セットン【で、やっぱり



……





チャットを見つめながらため息をつきつつ退室をし、電源を切るともう一度ため息を吐いた。

(もう俺らの事噂まみれじゃん…)
(まあいっか)

臨也はソファーにある大量の手提げを見つめた。
デパートに行くとあれもこれも欲しくなり、ついつい買い集めてしまったら十万近くかかった。まあ全てカード払いだし、お金に余裕な臨也はそれほど困りもしなかった。

静雄は先ほど、どうしても言うことを聞かないガキがいるらしくどうにかして欲しい。と言われたので仕事に出て行ってしまった。帰りは雨は降って居なかったが、今ではざぁざぁに降り続けている。

(傘…持って行ったかな)

濡れて帰って来たらまずお風呂かな。と考えながら寒くなって来たのでヒーターをつけるとチャイムが鳴った。













ながい…