※幽霊臨也。パロ
気付いたら此処に居た。見知らぬお墓の上に座って、来る日も来る日もこの場所で座りながら空を見て居た。
たまに来る人間は俺を素通りして何やら隣のお墓でお祈りしてる。
そんな日々。自分がどんな奴でどうしてここに居るのか分からないまま過ごしていると、バーテン服の男が俺の目の前に立った。
「……墓に座って何してんだ?」
「…え、俺のこと?」
「手前ぇしか居ないだろ」
バーテン服には自分が分かるようだ。他の人間は自分が声をかけてもスルーしていたのでもしかしたら自分が見えないんじゃないかと思っていたが、彼には見えるようだ。
「…俺、ずうっとここに居るんだ。目を覚ましたときから。どうして此処に居るのかも分からないけど…凄く寂しかった。人間に声かけても無視だし…」
「……」
「俺は、何なのだろう?君には分かるかい?」
暫し彼は無言になってから手にもつ花束から一本の花をこちらに渡して来た。
「たぶん幽霊じゃねぇか」
「…つまり死んでるって事?」
「ああ。親に渡す花だったが手前えに一本やるよ」
幽霊なら触れられないんじゃないかな。と思いつつも手を伸ばすと不思議と手に持てて花の香りもする。
「綺麗な花だね」
「だろ」
「うん。…ねえ、君名前は?」
「平和島静雄」
「そっか…また来てくれる?」
「暇があったらな」
「ふふ、じゃあ楽しみにしてる」
そう言って彼は少し離れた場所にあるお墓の前に座って手を合わせる。俺は手に持つ花をくるくる回しながら見つめていると、彼がこちらに気付いて小さく笑った。
「また来てね、シズちゃん」
「……」
「シズちゃん?」
「いや、なんでもねぇ」
何か不振に思いながらも彼は「またな」と手を振って階段を降りて行った。
その日から、毎日俺に会いに来てくれては花を一本くれた。何の花だっけ、百合かな?
他愛も無い話をして、日が暮れたら帰って行く。今まで幽霊だったから俺の存在なんか誰も気付かなくて、ちょっぴり不安だったけど…今では寂しくなんか無い。
「…シズちゃん」
「ん?」
「いい加減さ、俺…成仏しようと思ってるんだよね」
「……そうか」
寂しくなん、か…。
「…今まで、どうして成仏出来ずに此処に居たのか分かった気がする」
「?」
「俺ね、人間が好きなんだ。でもどうも人間には好かれなくてね。たった一人でも愛してくれる人が来てくれるのを待ってたんだと思う」
シズちゃんは小さく「そうか」と視線を俯かせた。
今まで記憶が欠落していたが、段々と彼と話すうちに自分が何者なのか分かって来た。人間が大好きで、自分でも卑怯な手で使う奴だと思った。そんな自分だから人間に愛されず、死んだ後でも未練として残ってたんだ。
「でもシズちゃんなら俺を愛してくれると思うんだ。違う?」
「…違う」
「はは、そっか。それは残念だな」
毎日飽きずに俺に会いに来てくれるもんだから、少しは愛してくれてるんじゃないかと思ったんだけどね。
「…じゃあ嘘でも良いから愛してる、て言って?」
じゃないと成仏出来ないよ。
「……」
「シズちゃん」
「…言ったら、」
「?」
「言ったら、手前…消えるんだろ」
「…そうだね」
シズちゃんは返事をせずにまた無言を決め込んだ。
「……お願い。いつまでも未練タラタラでいたく無いんだ」
「…そう、だな」
「うん。今まで話相手になってくれてありがとう」
死んでる奴がいつまでもこの世に居るなんて迷惑だし、それに君と話せた時間が、もう充分過ぎるぐらい幸せだったんだよ。
「…また、暇な時にはここに来いよ」
「うん…シズちゃん。俺はシズちゃんのこと大好きだよ」
人類では無く、『平和島静雄』という人間を俺は愛してる。ずっと花を送り続けた君が、ずっと傍に居てくれた君が、とても大好き。
「…ああ、さっきのは嘘だ。俺もお前を愛してる」
「ふふ、ありがとう」
身体がぽかぽかと浮く感じがした。
本当なら成仏なんかしなくて良い。シズちゃんとこうしてお話してたい。
一回も降りた事も無かった地に足をつけるとシズちゃんの頬に手をそえる。
「…愛してる」
ゆっくりと唇に唇を寄せると、それは惜しくも光のキスとなった。
「…ああ、じゃあな。臨也」
俺の名前を知らぬはずの彼が、そう呼んだのはもう聞こえなかった。
遠い俺が、遠い君に出会ったとき。
「よろしくね!シズちゃん!」
「なんだシズちゃんて」
「かわいいでしょ?」
「かわいくない」
「いいじゃん!いっしょにあそぼ」
手を繋いで帰った。
手を繋いで散歩した。
遠い俺の初恋の人。
今はもう、会うことは無いけれど…とても幸せな時間でした。
ありがとう一輪の花
(今日も俺のお墓には)
(たった一輪の花が飾られてる)