池袋は今日もごった煮状態で、そんな中改札を抜けて俺は来神学園に向かう。徒歩で十分ぐらいだが、朝は通学や通勤の人間で駅のホームは溢れかえっている。俺としては大好きな人間を眺められるから良いんだけど。
そんなことを考えて居ると誰かと肩がぶつかる。こんなのいつもだからと無視して過ぎるといきなり肩をつかまれた。

「おい、手前よ、肩にぶつかっといて謝りも無しかよあぁ?」

ああ、理不尽な奴も居るもんだ。肩ぶつかったのは俺じゃないし君じゃないのに。

「すいません。じゃ」
「あぁ!?んだよその謝り方はよォ!」

正直、うるさい。
いちいち突っかかって来ないでよ。つか謝ったじゃん。早く行かないと学校遅刻するんだよね。もう遅刻すると担任に呼び出しくらうから避けたいってのに。

「謝ったじゃないですか。すいません、僕急いでるんで」
「あァ?ふざけんなよ」

また強く肩を掴み、近くの壁に叩きつけた。あーマジで痛い。つかふざけんなコイツ。俺急いでるって言ってんのに。まぁこれも人間だから仕方ないよね。

「いた…」
「おい、土下座しろ」
「…僕、学校に行かないといけないんですが」
「学校ー?ハッ、なら学校に電話して言ってやろおか?お宅の生徒が肩ぶつかっといて謝りもしねぇって」
「…」

バカじゃないの。んな事したらお前の人生ぐしゃぐしゃにしてやるよ。
ああーどうしよ。

「おい」

また別の声に視線を横にサラリーマンらしき金髪の男が立って居た。

「んだよオッサン」
「離してやれよ。つかみっともねぇな、ただ肩ぶつかったぐれぇでよ」
「あぁ!?オッサンには関係ねぇだろ!失せろ!」

金髪の人はイラついたのか額に血管が浮き出てきそうだ。目の前の男はぐちぐち文句を言っているが。

「だあああぁ!うぜぇ、やっぱ我慢して注意なんてしなけりゃ良かったな」
「あ?やるってか、来いよ。オッサン相手に小指で良いつぅの」

ゲラゲラ笑う男に、金髪の人はタバコを携帯灰皿に消すと首をコキコキとならす。

「つっー事は何されても文句はねぇな」

その瞬間だ。
人間が、飛んだ。
数メートルまで。
飛んだ?
目の前に居た憎たらしい男は一瞬にして居なくなった。

「おい大丈夫か?」

唖然としていると金髪のサラリーマンは俺に声をかけてきた。慌てて「ありがとうございます」と言うと笑いながら「そんなこと言わなくて良い」なんてさっきの形相とは似つかない程に優しい笑みを浮かべていた。
さっきの男は数メートル先で喚きながら逃げて行ったようだ。

「凄い力ですね」
「いや、自慢できるモンじゃねーよ」

どうやらナイフも刺さらないらしく、車に跳ねられても平然と居るらしい。そんな素晴らしい力持ちなのに、彼は暴力がキライなのだと話して居た。
面白い人間を見つけた。
むしろ彼は人間じゃ無いのかもしれない。
ははっ、これは凄い。

「俺、臨也って言います。助けてくれてありがとうございました、いつかお礼させてください」
「いや、んな事しなくて平気だ。とにかくお前が無事で良かった」

その言葉と笑顔に、何かが落ちる音がした。それは紛れもなく――

「あ、あの!今日…仕事終わった後でも良いんで会ってくれませんか?」

彼はまたタバコを吸いながら少し悩んでいるみたいだった。さすがに学生からの誘いなんか乗ってくんないかな…。

「駄目ですか?」
「いや、別に良いけどよ」
「本当ですか!」
「…ああ。じゃあこれメアドとケー番」

名刺を渡されてドキドキしながらも名前を見てみる。
へいわじま…しずお…。

「静雄さん…あの、これ、俺のメアドとケー番。終わったらどっちかに連絡ください」
「ああ分かった。じゃあ気をつけて行けよ」

ニッコリと微笑んだ静雄さんは俺の頭を撫でると人混みの中に消えて行った。
なんだか呆然と名刺を持ったまま消えた方を眺めながら自分の中に渦巻く鼓動の理由を知った。

(…す、き)

所謂、一目惚れってやつ。
ああ…早く、放課後にならないかな…。

それから学校に向かうと一時間目は始まって担任に呼び出されたのは言うまでもなくて。


えきのなか。ぼくとあなた
(まだ一時間しか経ってないや)
(はやく 会いたいなあ)

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