愛された彼と正反対な自分



あのあとは途中まで静雄に送って貰い家に着いた。彼は近くで見れば見るほどかっこよく、そんな彼の隣に居る自分に優越感を覚えた。今の彼の傍に居るのは自分なのだと。
ウキウキしながら家の中に入ると母親の喘ぎ声がすぐに耳に入った。また愛人とリビングでセックスでもしているんだろう。いつものことだったので気にせずに二階へ上がると知らない男が三人ほど居た。

「折原臨也くんか」
「……」
「いやぁ、君のお母さんは実にけしからんね。うちの会社に雇って良かったよ」
「何のことですか」

母親は専業主婦なので、仕事はしていないはず。どの会社に雇われたというのか。複雑な眼差しを大人に向ける。

「まぁまぁ、そんな顔しないでくれ。はい名刺」

素直にその名刺を受け取ると、そこには有名なAV会社の名があった。

「…まさかアンタたち、うちの母親をAVに出させる気なの?」
「お察しのとうり。良い人材でねぇ、いやぁ、彼女も出たいと言ってくれて助かるよ」
「ふぅん」
「おや、興味が無いみたいだね」
「当たり前。俺には関係ない。母親を使いたかったら勝手にすれば。俺に手出ししないならね」

この男たちが二階に、しかも自分の部屋の前に居たということは自分もそのAVに勧誘させる為かもしれない。正直母親がどうなろうと関係無かった。ろくに家族の事なんか考えもせずに愛人を連れ込むだけの親なんて、自分の親だとすら思わなかった。

「とりあえず、俺は部屋に入りたいんだけど。あの母親を使いたいなら好きにすれば良いよ」
「親不孝な奴だ…。まあ彼女は使わせて貰うとして、やはり君も見れば美しい。ぜひ我が社に来て頂きたいものなんだが」
「絶対に嫌。俺さ、大人は嫌いなんだよね。そんな奴らの言いなりなんか真っ平ご免」

片手をあげた相手を見計らい、手に持つ鞄を男の顔面に振りかざす。それは見事に顔面に直撃をして、男は後ろに倒れた。
その隙にすぐさま階段を降りて外へと飛び出した。今日出来た傷が痛んだが形振り構わず走り続けた。遠くで男の叫ぶ声がしたが決して振り返らなかった。




夜がだいぶふけた頃に家に戻ると、あの男たちは帰ったようだ。母親も風呂に入ってさっぱりしているようで、何事も無いように鼻歌なんか歌いながら「おかえりー」なんて言っている。

「何処に行ってたのー?」
「……友達の家」
「ふーん、風呂入っちゃいなさい」

決して臨也の方は向かずに食器を洗う母親に、小さく舌打ちしながら風呂場に向かう。何呑気にしているの、と言ってやりたくなった。むしろ父親にチクってやろうかとも思った。自分までAVに勧誘されたと言うのに、母親は知らん顔だ。

「絶対、大人の言う事なんか聞かない」











次の日、学校に行くと下駄箱には沢山のAV写真が入っていた。女が男に跨がってる写真だとか、男が男に突っ込まれてるのだとか。昨日の男たちだろうか、しかし自分の学校なんて知らないはずだ。どうでも良いと思いながら新しい上履きを取り出すと靴を仕舞う。周りに散らかる写真を放置に、いつもの音楽室へ向かった。

今日も静雄はかっこいい。授業に集中しているようで目元が真剣だ。また彼はここに自分が居ると見つけてくれるだろうか、と淡い期待に胸を踊らす。
昨日破れたはずの窓ガラスも綺麗になっていて、校長もやることが早いと心で笑う。

「あー、もう一回」
(彼と話がしたいなあ……)

昨日の奇跡がもう一度起こらないかと期待をする。また自分が怪我をしたら駆けつけてくれて話すきっかけになるだろうか。もう一回、窓ガラスをぶち破ろうかと本気で思っていると音楽室の扉が開いた。どうやら昨日の生徒会の奴みたいだ。

「今度は何かな?」
「いやぁね、話がしたくて」
「へぇ、珍しい」
「お前の母親、AVに出るんだろ?」

その言葉に臨也は止まった。

「……なんで知ってるの」
「なんでだろうなぁ」
「ああ、君か。あのクソAV共をウチに寄越したの」
「さぁて、どうかなあ」

この反応に間違いは無いだろう。軽く舌打ちをした臨也は息を吐いた。

「ウザイんだよねぇ、本当。俺まで勧誘させようとするし、俺だって黙って見過ごす程優しくないんだよ」

ニッコリと笑ってやれば相手はごくりと喉を鳴らしながら強がる姿勢を崩さなかった。臨也がヤクザなど怖い連中とつるんでるのは学校内でも有名な話。そんな奴らからいきなり襲いかかられたら生きて帰れないのは承知だ。

「はんっ、もうこの学校ではお前もAVに出てるんじゃないかって噂だぞ?良かったじゃないか」
「そういう奴らには思わせておけば良いだけの話だろ」
「とにかく、そんな不純な奴をウチの学校には置いておきたくない」
「でも退学処分は出来ないんでしょ?」
「そうだな。…でも来させないようにすることは出来るだろ?」

そんな相手の台詞と同時に、不良っぽい男たちが音楽室に入って来た。ため息を吐きつつ視線を外に向けた。

「くっだらない」
「お前さえ居なくなればこの学校は治安が良くなり、周りからも評価の高い高等学校になるのだ!」

治安が悪いのを自分のせいにされて少しイラついたが我慢した。イカれているのは自分ではなくコイツらのせいだ。いやこの学校を統べる校長も教頭も教師も、イカれているから治安が悪いのだ。それを自分のせいにされても困ったもの。

「君さぁ、親から愛情いっぱいに育てられたんだね。『何々ちゃん、これ欲しいの?良いわよ』とかいうワガママを聞いてくれるバカ親がいて、『何々ちゃん、大好きよ』なんていうバカ親がいて、だからこんなひん曲がった屑が出来るんだよ」
「両親を侮辱するな!」

愛を受けて育った事のない臨也にとって"羨ましい"というべき相手。ワガママも聞いてくれて欲しいものは必ず手に入る。すぐ傍に親が居て見守ってくれる。坊っちゃん的に育てられたのだろう。何をしても許されるとも思っている常識知らずに。

「お前の母親だってAVとかいう汚い世界に入ってるじゃないか!」
「そうだね、だから?」
「だ、から…」
「そこに居る不良さん達だってさぁ、俺みたいに両親が両親だろ?くだらいよねえ。本当にくだらない」

く、と唇を噛み締める音に臨也は笑いながらナイフを取り出した。

「そんなに殺られたいなら殺ろっか?」

もうこのイラつきは止められそうにない。



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