それはいつかの、



気付いたら目で追って居た。なんていう状況が本当にあるのだと折原臨也は知った。授業をサボってはこの四階の音楽室に逃げ込んで来たわけだが、音楽室から外を見ると必ず見てしまうものがある。

「あ」

目の前にある校舎の三階の二年三組にいる平和島静雄だ。いつからかこの場所で彼を見つけてから目で追って居た。彼が何処に居るのだろう、と探したりもした。迷惑極まりない行動だが臨也は気にしなかった。
真面目に勉強をしている彼は何よりかっこよかったのだ。女の子が惹かれそうな存在。男でも惹かれそうな存在だ。
遠くで見ているだけで良かった。今のこの歯痒い距離に満足だってしていた。彼を見てれば良いのだと臨也は思っていた。

だが、折原臨也、と学校内で言えば大人は苦い顔をする。一部の生徒に良く思われて居ないのも承知で、その一部というのは生徒会と呼ぶべき奴らなのだが。生徒会の何人かに呼び出しされて殴られたこともあった。今日も下駄箱をイタズラされてここに逃げて来たわけだが。

「かっこいいなあ」

靴下だけでは少し寒いと思いながらストーブの上に座って窓を見た。ノートを移す真剣な顔はかっこいいとだけでは言い表せられないほどに美にふさわしかった。
思わずニヤケてしまうと音楽室のドアが開いた。

「折原臨也、いい加減にしろ。授業が始まってるぞ」
「そーゆう君こそ、授業抜け出して良いの?」

相手はどうやら上級生らしく、生徒会の一員でこの間殴った奴らの一人だ。

「俺は校長に許可を得てる。なんだ、この間みたいに痛い目に遇いたいのか?マゾなのか?」

嘲笑うかのように皮肉にものを言う相手に眉を寄せた。

「はは、まさか。じゃあこの間殴ったのも校長に許可得てたの?この学校、治安悪いよね」
「お前のせいだろ!いいから授業に出ろ!」

ガッと胸ぐらを掴んだ相手にナイフをかざそうとした手を塞がれる。まるで思惑に乗ってしまったかのようで笑っていた。
ヤバい、と思った時には硝子が割れた。割れた、というかは割った、というのが正しいのだろう。上級生は力任せに臨也を押した。もちろん臨也は窓ガラスの前に居たのだから薄いガラスは突き破られ、ベランダに落ちた。

「がっ…」
「っ…!」

相手もこれは予想外だったのだろう、顔を青くしながら急いでその場を離れたのが見えた。破片やらが身体に刺さり身動きが出来ない。
身体がたるい。朦朧とする、頭を強く打ったらしい。

「……折原!?」

誰かの声に、ゆっくり目を閉じた。















誰かを愛したことは無かった。きっと両親の受け売りなのかもしれない。いらない知識ばっか与えやがって、と舌打ちをしたのはいつだったか。両親は互いに愛人がいた。飽きやすい両親は、すぐに他に目移りしていた。だから誰かをちゃんと愛したことが無かったみたいだ。臨也も同じように誰かを特定で愛したことは無かった。だから変わりに"人類"を愛することに決めたのだ。それも所詮、飾りに過ぎないのだけれど。

だから彼に執着したのは始めてだったのだ。彼ばかり見ていたのは。

折原臨也はまだ、その感情が何なのかは分からないままだった。



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