これからの二人



彼の言葉に「何故」と問わなかったのは、きっと自分自身、その意味を知って居たからだ。
電子音が包む。何かを言いたげに口を開いてはみたが、どうも言葉にすることが難しいようで、無音だけが彼に本音を伝えていた。

そんな静雄に、臨也はただニコリと笑う。

「俺は、貴方が好きだから、殺されても良いと思ったんだ。貴方が好きだから、生きていて欲しいんだ。貴方が好きだから」

はじめは分からなかった。だけど、静雄が自分を騙して殺そうとしているのを知ったとき、憎しみなんか湧かなかった。ただ、彼になら殺されても良い、という思いだけ。そして、彼へ向ける視線だとか、想いだとか全部ひっくるめて彼が好きなのだと自覚させた。

「お前、裏切られたんだぞ?」
「そうですね」
「また、お前を殺すかもしんねーぞ?」
「もうしないでしょ?だって、自分で死に行くなんて、俺を殺したくなかったからじゃないですか?」
「自惚れ過ぎだ」
「そうですか?」

臨也の一つ一つの言葉に、ついつい笑みが零れてしまう。なんだ、簡単だったんじゃないか。と心では爆笑した。
自分も彼と同じ想いであったからこそ、自分から死に行った。最善であったから、というのはただの建前だ。彼が大切だったから。彼をもう傷つけたく無かったから。

「全く。お前と元恋人のせいで、とんだ悲劇に巻き込まれた」
「そんなこと言わないでくださいよ。こんな悲劇でもなければ、俺たちは出会わなかったですよ」
「それも、そうだな」

自然と静雄はいつものように笑って居た。何かが吹っ切れたようだ。重しが無くなったかのような、清々しい顔をしている。

「先輩」
「なんだ?」
「俺と、逃げませんか?」

そんな静雄に、臨也といえばニコニコとしながら凄まじいことを発している。

「それ、何を意味してんのかわかって言ってんのか?」
「勿論。貴方は殺し屋だ、警察に見つかったら間違いなく俺も共犯者として、死刑でしょうね」
「分かってんならなんで」
「だって、いつでも一緒でしょう?捕まる時も一緒です。死ぬ時も一緒です。何をする時でも一緒にいられる」

どんな形であれ、臨也にとって静雄の存在が必要不可欠なのだ。中学と同じ、これは依存だと言うのだろう。また中学のように、同じ過ちを繰り返したくなくて。
そしてまた、彼がいないと思った時間は心が崩壊しそうになった。

「嫌なら良いんです。先輩は別に、俺のこと好きじゃないだろうし…」
「勝手に決めつけるな馬鹿が」
「え?」
「お前が好きじゃなきゃ、嫉妬なんかしねーよ」

そんな言葉に、ぶわわわっと顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。そんな臨也に、今度は静雄が笑う。

「良いのか?たぶん俺は、お前より独占欲強ぇぞ?」
「上等ですよ。へーわじま先輩」

また、臨也も笑みを浮かべ、二人は幸せそうに手を取り合い、唇を寄せ合った。







「……行っちゃったのか」

夜の九時頃。平和島静雄と札の貼られた病室を開けた男は、小さく笑った。手に持つ花束は意味を成さなく、その病室は空っぽだった。少し開いた窓から紐が垂れ下がっているのが見えた。
男は開いてる窓から下を見ると、下には何も無い。

「全く、逃げるなら分からないようにしろよな」

また男は小さく笑い、紐を引き上げ、鞄に仕舞う。そして空になったベッドの上に手に持つ花束と、そして空の鳥かごを置いた。

「臨也たちも、羽ばたいたんだな」

その意味を表すかのように鳥かごのふたを開けて。
「元気で」と呟いて男は部屋をあとにした。かつて、自分が愛した彼へ、そして彼が愛する人へ。






「まずはどうしますか?先輩、あまり歩けないでしょう?」

臨也と静雄といえば、闇に溶けるようにして人通りの少ない路地裏を歩いていた。まだ身体が痛むのか、静雄は少しゆっくりと歩く。

「少し、休みてー」
「そうですね。先輩が傷治ってからにした方が良かったですか?」
「いや、あそこに居たらマジに殺されるからな」
「んじゃ、ちょっとここで休みましょ」

近くにある階段に座り息を吐く。二人の行き先は分からない。ただ逃げるだけ。鬼に見つかってしまったら終わる、追いかけっこ。こんな道に来て良かったのかと静雄は臨也を見た。自分は良い。だけど、臨也は本当にこれで良かったのだろうか。

「まだ不安ですか?」
「また悲劇の繰り返しだぞ?」
「ねえ先輩、知ってますか?」

臨也は不安げな静雄を見て、満天の星を指差して大きく笑った。



「悲劇の先はハッピーエンドだって、決まってるんです」



なんだかな。このままでいーか。
静雄もまた笑った。こんな人生だって構わない。愛する人との人生ならいくらだって。

夜明けが来た頃、二人は歩き出した。決して振り向かずに。

「どこだって付いてきます」
「ああ」
「あ、また裏切ろうとしたら、俺が先輩殺して自分も死にますからね」
「そのまま返してやるよ」
「俺は絶対裏切りません」
「知ってる」

二人の楽しそうな声と足取りが、大きく影として揺れた。


無防備ダイナミック
(このあと、歯車はどう動くかは)
(神さえも予想できない、ダイナミックさ)


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