君への想ひ



電子音が包む、空白の世界。
手が暖かくて、重たい目を開けた。見上げた天井。開けていく視界に、静雄は意識を覚醒させる。

「…良かった」

ホッとしたような声に、静雄は意識をそちらに集中させる。眠る静雄の手を、臨也はずっと握っていてくれたようだ。

「良かった、先輩」
「…なん、で。ここにいる」
「先輩こそ、なんでわざわざ死にに行ったんですか」

臨也から視線を外し、外を見つめる。
何故、死にに行ったか。
それは互いに最善だと思ったからだ。だけど、それだけじゃない。もう、ここに居る意味が分からなくなったからだ。

「先輩。俺は別に…先輩のこと、恨んでなんか居ません」
「…なんでだ?何で恨まねーんだ。俺は裏切ってたんだぞ?」
「そう、かもしれません。だけど…先輩との過ごし短い時間は全部、俺の宝物だ」

過去を打ち明け泣いてくれた静雄。ずっと傍に居てくれたあの時間。短い時間でも、臨也にとっては幸せ過ぎるほどだった。

「それに先輩、過去を話した時に、本気で泣いていたでしょう?それだけは…嘘偽り無かった」
「…だからっ、て」
「だから俺、先輩になら、殺されても良いと思えた」

たったそんなことで、自分が死ぬことを決意したのか。
騙されているのは途中で知ったという。確かにショックはあったが、静雄になら殺されても良い、と、わざと放課後に誘ったらしい。淡々と話す臨也にどうしてだ、と疑問が浮かぶ。

「何故、俺になら殺されても良いと思う?死にたくなんてないだろ?何故、お前は淡々と話せるんだ。何故…」

何故。
何故?
また疑問を生み出す。これは悪いくせだとは思うが、疑問ばかりが自分を蝕んでいくようだった。

「何故だ?俺は、生きている価値がわからねーんだ。何故生きているのか分からない。息をするのも、感情を知って愛をしるのも、何故だか分からない。何故、人は殺しちゃいけない?人は生き物を殺すのに。息をして得するのか?」

なんて世界は疑問の連鎖なのだろう。考え出したらキリが無い。最終的に行き着くのは「人とは何なのか」数学の公式を解くように簡単であれば良い。しかし静雄にとっては数学でも理科でも解けない疑問を、臨也になげかけた。

「先輩、」
「生きている必要がないだろ!?俺は沢山の奴を殺してきた。その中で人は泣いていた。相手はろくな事もしねー奴だったのに、みんなして悲しむ」
「それは、その相手が大切だから」

たとえどんな奴であろうと、必ずその人の為に泣いてくれる人がいる。その人を守ってやりたいと思う人がいる。だから泣いたのだ。

「大切?大切ってなんだ。その人を守ってやりたいということか?愛しているからか?じゃあ愛とはなんだ」
「愛て、その人と一緒に幸せだったりすること。ついでに言うなら、先輩は生きる価値がある。先輩は生きなくちゃならない。何故人は息をするのか、愛する人の為、幸せの為、それは自分次第。死にたいなら死ねばいいだけ」

先ほど言っていた疑問に、流暢に言葉を紡ぐ臨也。そしてそれに静雄は、まだ物足りないように眉を寄せた。

「俺に生きる価値?俺には生きる価値なんてあると思うのか?」
「あります!」
「誰からも愛されたことがない。上辺だけの付き合い。散々人を殺してきた」
「でも…っ」
「人殺しに、価値も何もねー。ただのクズでしかないだろ」
「そんなことないです!俺は、俺は先輩に生きてて欲しい」

何故だ?と繰り返す静雄に、臨也は涙が頬を伝っていた。なんて可哀想な、子供だろうか…と。まるで迷子になった犬のようだ。

「何故だ?生きていてお前は得はしない。また俺に殺されるかもしれない」
「それでもいい!」
「何故だ?」
「俺は、」

もう何を答えても駄目なら…と、臨也は泣きながら、静雄が横になるベッドに膝を乗せる。そして、彼の瞳をみていう。

「俺は、先輩が好きだから」


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