ふりだしに戻る



次の日、上級生とその父親が亡くなったことは、学校中の話題となっていた。そんな二人を殺した静雄は何食わぬ顔をしながら登校をしていた。

「よ、折原」
「あっ…あ、先輩…おはようございます」
「…どうかしたか?」
「い、いえ…」

音楽室に居た臨也に声をかけると、酷く怯えたように静雄を見た。何かあったのだろうかと近付くと、後ずさりをすることが無いので自分に怯えているのではなさそうだ。

「上級生と親…殺されたらしいですね」
「…らしいな」
「なんだか清々しいとか思ってる俺は酷いですかね?」
「いいんじゃねーか?俺も清々しい。あんな奴、居なくても良いとか思うしな」

これは紛れもない本音だ。父親を殺した相手がこの世に居ないことが清々しい。
臨也は少しばかり苦笑いを浮かべたかと思うと、静雄から視線を外して外を見やった。

「……先輩。今日…空いてますか?」
「ああ、空いてるが」
「なら、何処か一緒に行きませんか?先輩が良ければ」

これは彼を始末出来るチャンスなのではないだろうか。静雄はそう思ってその返事を二言で返した。

「じゃあ放課後、楽しみにしてますね!」
「ああ、俺も」

臨也は無邪気に笑った。そんな笑顔を見れるのも今日までだ。依頼には何があっても果たさねばならない。それが今までやってきた静雄の任意だった。途中で投げ出すなんてしない。今回ばかりは少し遅れてしまったが、臨也を始末しなければ次にいけないしヤクザに何されるかも分からない。
静雄は申し訳なさを少しだけ感じながらも放課後を待った。








「何処行きますか?先輩、行きたいところとかあります?」

放課後。
二人は約束どうり、街中を歩いていた。静雄のポケットにはナイフ。鞄の中には銃を用意してある。そんなことを知らずか臨也は楽しそうに笑っていた。

「何処でもいい、折原は何処に行きたいんだ?」
「あの…水族館観に行きません?」
「水族館?」
「実はチケットを貰って…俺一人じゃなんだったんで、先輩もよければ…」

ポケットから取り出した二枚組のペアチケットを出した臨也に、静雄は笑う。

「全然良い。行くか」
「はいっ」

最期ぐらいは好きにさせてやろう。
どうせ、このあとは裏切りだと知らずに殺すつもりだ。彼を裏切る事だとは極力思いたくはない。彼を裏切るのではない、仕事なのだと心に言いつける。

水族館に着くと、まるでデートのように楽しんだ。

「あ、先輩!イルカショー観に行きませんかっ?」
「いいな、行くか」
「はいっ」

友達というのはこんな感じなのかと静雄は思う。同様に臨也もそうだ。静雄の周りにはヤクザ絡みだし、臨也も周りにはヤクザ。人とはあまり絡まないから友達も居ない。もしも本当に友達になれたら、毎日放課後にはこうやって遊んでいたのだろうか。

館内を周り、アイスを食べながら一休みして…そんな幸せな時間を満喫していると、閉店時間がやってきた。二人は外に出て、誰も居ない公園で暖かい飲み物を片手にのんびりしていた。

「楽しかった…ですか?」
「ああ、連れて来てくれてあんがとな」
「い、いえ…!俺だけ楽しんでたのかと思ったんですけど…良かった」

ホッと胸をなで下ろした臨也は、いつものように笑った。
静雄はポケットに手を入れてナイフを手で弄ぶ。臨也は気付いていない。

「…なあ、折原」
「はい」
「その、なんだ…何か悪いな」

ナイフを取り出そうとした時だ。

「本当ですよ、先輩」

予想外の返事にナイフを出すタイミングを逃した。

「…俺を、今まで騙して居たんでしょう?」
「おり…はら?」
「知ってますよ。知ってるんです」

いつものように微笑みながら言葉を紡ぐ臨也に、信じられないと言わんばかりに目を見開く。
気付かれていた?いや、そんなはずは無いと思考を巡らせる。一体いつから気付いていたというのか。

「上級生を殺したのも先輩でしょ?そして俺に近付いたのも、俺を始末するため…違いますか?」

違わない。そのとうりだ。
そう知っておいて何故何も言わない。

「じゃあ死ぬ覚悟は出来てんだな」
「そうですね…先輩になら、殺されても良いですし」
「…」

本人がこう言うのだ。
もうころしてしまおう。
静雄は何も躊躇わずにナイフを取り出した。

「失望したか?」
「ええ、とっても――」

ニコリと笑った臨也に、静雄はナイフを突き上げた。相手が受け入れているのならなんだって良い。どうせ死ぬのだ。
ナイフが臨也の心臓に目掛けて振り下ろされる。






だが、






「やめろ!!」


ある男の声に静雄は動きを止めた。臨也も何事かと声がする方を見ると、見知らぬ男が立っていた。まるで入院中の患者が着るような服にサンダルといった、一見変人のようにしか見えない男に静雄は眉を寄せた。しかし臨也をみると、体が震えているのがわかる。

「う…そ、嘘、嘘、嘘嘘嘘!!なんで!病院にいるんじゃ…」
「…臨也、話を聞いてくれるか。中学以来のこと」
「いやあああああああああああああああああああああッ!!聞きたくない!きぎたぐないいぃっ」

静雄はこの発狂と、そして彼のいう中学以来という台詞で初めて彼が、トラウマになった中学の元恋人だと気付いた。



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