交差する過去と今



真っ白の部屋で、男は何処か遠い空を見上げていた。彼はこの空虚に閉じ込められて約一年程の月日が立っていた。
"ある男"の事は彼には禁句だ。
いきなり叫び出し、暴れ、泣き出す。両親はその男を許さなかった。否許せるはずが無かった。大事な息子の体には一生消えない傷が残っているのだ。だから両親はその男を、始末するようにとある事務所を尋ねた。

「お願いです!私たちの大事な息子を、あんなにさせた…"折原臨也"を殺してください!このお金じゃ足りないなら、まだ出しますから!」

相手はニヤリと笑ってタバコを蒸かす。顔に刺青を入れた若いその男は写真を見ると笑いながら両親たちを見た。

「いい度胸してんねぇ…俺らに依頼ってこたぁ…自分たちの手を汚さずに済むもんなァ」
「……」
「まあ、報酬はたんまり頂いたァ…良い人材もいるしよ…ここは交渉成立ってわけで」

顔に刺青を入れた男は微笑むと、大金の入った鞄を叩きながら

「まいどありィ」

と、大きく笑ったのだという。






「折原、大丈夫か?」

その後…臨也というと、静雄に連れられて保健室に来ていた。彼の言う一言一言に、小さく頷きながらお茶を飲む。
授業は休み、静雄も臨也に付き添いとしてここにいる。

「……会いたい」
「え?」
「……会いたいんだ、本当は」

いきなり何を言い出すのだろうと、暫し無言で臨也を見ていたが、今からの流れでいうと病院の親友にだろうか。

「何で、会いに行かねーんだ。親友なんだろ?何か病でもかかってんのか…?」

聞いてはいけない質問だっただろうが、静雄は知りたかった。彼のこうなった原因を。そして正してやりたいと思ったのだ。
彼の、全てが知りたい。

「……力になれねぇ、か?」
「せん、ぱい…」
「お前が苦しいのは分かる、でも、お前をこのまま放っておけねーよ…だから、教えてくれないか?」

不安を隠せないのか、目が揺らぐ。だがそれを振り払うように、静雄はお茶を持つ彼のその手を強く握った。
まるで、大丈夫だと言い聞かせるように。

「…どんな事実だろうと、お前はお前だろ?折原」
「……本当、に…」
「ん?」
「本当に、その言葉…を、信じて良いですか?」
「ああ、」

彼の瞳に揺るぎは見えない。
決意したかのように、臨也はそっと過去の事を初めて口に出した。

「中学の時…ある、男子に出会ったんです。ずっと、ずっと友達で、何があるにも一緒に居て…毎日、彼の隣に居たんです」

言葉に震えが伺える。静雄は手を再度強く握った。

「そ、れで…」
「ああ、」
「それで、互いに惹かれ合ったりもして…その、付き合ったりも、したんです…付き合っても彼は相変わらずで…傍に居て幸せだった。愛してるって笑ってくれた、から…同じ気持ちなんだと、思ってた…んです」

話が深くになるにつれ、声だけでは無く体の震えも伺える。さすがに無理させすぎだろうかと、話を中断させようとしたが…彼は話すと言ってくれたのだ。きっと大丈夫だと、静雄は臨也を見つめた。

「な、のに、なのに。あの人は…!俺を裏切った。クラスで話してたの…聞いたんです。『折原臨也は、気味が悪い』て『付き合ってんのも金取る為だし』だとか…『どうせアイツは俺の玩具だ』って…!許せなかった、長い間傍に居たのに…友情だの、愛情だの…口先だけで」

ぐるぐる、
またあの感情が蘇ってくるようで、吐き気がした。
誰かを殺してやりたい気分になる。
どうせ裏切るならば殺してやりたい。

「……だから、命乞いをするその親友を…ナイフで傷つけました。どうせ…どうせ、俺は!気味が悪くて金を出して、アイツの玩具だよ!でも…でも俺は、彼に依存していた。離れられるわけがない!!」

振り払った手、落ちて割れるカップ。
臨也は自分が座るベッドへと静雄を押し倒し馬乗りになると、ナイフを掲げた。

醜い、ドロドロとして、
体が、能が、血液が細胞が、彼を殺せと言っている。

「どうせ貴方だってそうでしょう…?俺を気味悪いだとか!最低だとか!そう思ってるんでしょう?もう嫌なんだ!貴方をあれだけ見て来たはずなのに、きっと相手にされてないんだと思うと…俺はっ…!」

ナイフを振り下ろそうとした臨也の手が止まった。

「……な、ん…で」

静雄が、泣いて居たからだ。

何故、彼が泣くのだろうと思う。泣きたいのはこっちのはずなのに、静雄は眉を寄せて嗚咽などをかかずに、静かに涙を流した。

「なんで…」
「…お前は、苦労したんだな」
「せんぱ…」
「辛い話させて悪かったな。だけど、もう一人で抱え込まないでくれ…俺はお前を…きちんと信頼してる」

頭の中で、信頼なんかされてない、と思う自分があるのに、彼の涙は本物だ。
大きな腕が臨也に伸ばされ、そしてぽすん、と静雄に抱き締められた。

「大丈夫、大丈夫だ」

大きな手が頭を撫でる。
あまりの心地よさに、臨也まで涙を流した。この瞬間が、幻ではないと願いながら。

また、小さく嗚咽をかいた。



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