哀しい彼らの行く先



病院で目を覚ました臨也は、生きていた。死ぬとばかり思っていたし、何より死んだ祖父たちが手を振っていた気もする。どうやら一週間も眠っていたらしい。医師も死ぬかもしれないと両親に伝えても居たという。
目を覚ましてから三日経っているが臨也が待ち続けている静雄は見舞いには来なかった。

(当たり前…か)

あんな醜い自分を見せてしまったのだ。悲しそうに項垂れながら臨也は病室の窓から空をみた。今日は雪が降りそうだ。

「臨也、具合は?」
「大丈夫だよ」
「貴方に見舞いが来てるわ」

そう母親が言うと、ドアには待ち望んでいた静雄が入ってきた。そのまま母親は医師と話してくるとドアを閉め、静雄は眉を寄せたまま近くにある椅子に座った。
待ち望んでいたはずの彼が目の前に居るのに、何も声が出ないことに情けなさを覚えた。

「……身体、大丈夫か?」
「あ、はい…」
「そうか…そりゃ良かった」
「……」

会話が途切れてしまった。
とりあえず謝ろうと臨也は頭を下げた。

「すいませんでした」
「なんで謝んだよ」
「俺のこと、嫌いになったでしょう?あんな現場見て…」

人を平気で傷つけることが出来るのだ。感情なんてこれっぽっちもない。無心で人を軽々と傷つけて笑っている。相手が死のうが関係がない。そんな自分を静雄は嫌いになったに違いない、と歯を食い縛る。
静雄だけには見られたく無かった。あんな醜い自分を。

「いや…良い。お前も、不良たちに絡まれて仕方なかったんだろ?俺も…あんだよ、イラついて人、殴ること」
「先輩…も?」
「ああ。俺って短気だからよ、すぐイラつくんだ。しかも暴力が嫌いだってんのに喧嘩売ってきやがったり…そんでイラついて、気がついたら周りには人がボロボロで倒れてて…」

そこでいつも後悔するのだという。人を傷つける為に暴力は奮いたくないというのに、本能はそれを邪魔して相手を殴る。
静雄には後悔がある。「やってしまった」「また傷つけた」そんな優しい感情があるのだ。だが臨也には無い。人を傷つけて後悔したことなどないのだ。

「先輩は、優しいですよ」
「何言ってんだ。俺は人を殴って…」
「俺なんて、中学の時、イラついた相手にはナイフで傷つけたり、二度と人の前に立てないようにもさせました。でも悪いと思ったことは無いんですよ?酷いでしょう」

苦笑いを浮かべながら過去について話すと、静雄は小さく笑うと大きな手のひらが頭を撫でた。

「あんま無理、すんな」
「せ、んぱ…い」
「今回の事はちょっと驚いたけどよ…でも、お前の全てを知れたようで嬉しい」
「……!」

目眩がした。そんな甘美な言葉に溺れてしまいそうになる。決して自分を拒絶などしない彼がまるで太陽のようにさえ思える。

「先輩、ありがとうございます…」
「良いんだって」

目を覚まして良かった、と小さく笑うと外の雪に感嘆した。


















「どういう事だ、京明くん」

"京明"と言われた男は震える身体を必死に抑えるかのようにソファーに座っていた。目の前に居る男に怯えているようだ。

「折原臨也は死んでないっていう話だが?俺は手前ぇに確実に殺せっつったよなあ?」
「す、すす…すいませんっ」
「折原臨也を殺したら借金はチャラだっつってんのによー。あ?やっぱ可愛がってた従兄弟を殺すのは躊躇われるんか?」

タバコを吸う男は京明を睨み付けると唇を噛み締めてうつ向いた。
京明は先日、従兄弟の折原臨也暗殺を頼まれた。もともとヤミ金に手を出して莫大の借金を抱えてしまい返せる宛てが無かった。そんな彼に最期のチャンスと言わんばかりに折原臨也暗殺を頼んだ。
しかし失敗した。
失敗すれば待つのは死のみ。
その為に京明は震えていたのだ。

「もー一回、チャンスをやろう。これで始末できなかったら、次に始末されんのは手前ぇだ」

灰皿代わりに臨也の写真の上で火を消すと男は笑みを浮かべた。



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