振りかざした光



折原臨也にとって信じられる相手と言えば従兄弟だった。臨也よりも十歳以上も違う彼は、母親が自分の事ばかりにしか興味なくて臨也たちを放置しているのを見てすぐに構ってくれたのだ。料理を作ってくれたり、勉強を教えてくれたり、毎日のように東北の方から学校帰りなどに折原家に来ては面倒を見てくれた。
そんな彼に育てられたからこそ、折原臨也という男は完璧な悪人とはならなかったのかもしれない。
従兄弟も臨也が高校になると仕事が忙しくて来れなくなってしまったが、時々電話をしてくれるので今でも彼は臨也たちの親代わりだ。

「…く、そ!ただで済むと思うなよ!?父さんに言いつけて!お前なんか、学校に顔を出せなくしてやるからな!」
「親の力で?へー自分じゃ敵討ちも出来ないんだ?ははっ、とんだ幼稚だね」

目の前には倒れている不良たち。気を失っているみたいで当分起きないだろう。あとは生徒会の奴がボロボロになっているだけ。

「君が親の力を借りるなら、こっちもこっちのやり方で潰させて貰おうかな。ねぇ?」

臨也は地にへばる相手の前に立つとナイフを高く翳した。このまま降り下ろして傷つけてしまおうか。どうせ退学処分にもならない。いつまでも付きまとわれたらたまったもんじゃない。

「や、やややめろ…」
「大丈夫大丈夫。死なないようにしてあげるから」

いつかの醜い自分が出ている。引き出しにしまって鍵をかけて封印したはずの自分が。中学の時のようなドロドロとした自分が。



「――折原…?」



ナイフを振りかざそうとしたとき、音楽室のドアが開いた。そこには息を切らした平和島静雄がいるではないか。
目を見開きながら臨也は固まった。

(見…ら、れた?)

手が震え、ナイフを持つ力を失う。床に音を立てて落ちたそれは、まるで全ての終わりを告げるかのようにも思えた。
生徒会の奴は怯えながらも今がチャンスと思ったか教室を飛び出した。

「お前…」
「……」
「お前、何、してんだ…?」

静雄の少し震えた声に、ここが潮時とばかりにあの生徒会の奴同様に静雄の横を通り抜けた。それと同時か、チャイムが鳴り本当に全てが終わりを告げたかのようだった。

(見られた。)
(見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた…!)

昨日以上に動機が激しい。行き場の無いこの感情が涙と変わって溢れだした。一番見られたくない人に醜い自分を見られた。もう彼は自分なんかを見てはくれない。

(どうし、よう)

昨日の幸せが凶と出たかのように、臨也は静雄を見れなくなってしまった。いや周りも見えなくなってしまった。だから…目の前に居た男に臨也は気づかなかったのだ。

「臨也くん。ごめんね」

聞いたことのある声に顔をあげた時には腹部に激痛が走った。ぽたり、と涙とは違う液体に視線を下に下げればナイフが自分の腹部に刺さっているではないか。

「う…そ、」
「ごめん」
「きょ…う、に…さん……?」

ぐるぐる渦巻く何か。

"きょうにいさん"
臨也が親しみを込めて呼ぶ男は悲しそうに笑っていて、倒れた彼を放置に何処かへ行ってしまった。
死んでしまいそう。いや死ぬのか。
もう死んでいいか。なんて諦めな考えの中に浮かんだのは静雄の姿。最悪な形で、別れてしまったから悲しんでくれないのだろう。
それでもいいか、
全てを諦めて臨也は眠りについた。




(ああ……生、暖かい)



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