(死ネタ)
(静臨←サイケ)
明かりもない部屋の窓辺。小さく口ずさむ、君が教えてくれた最期のうた。
0時過ぎの空は真っ暗で、月明かりだけがおれの部屋を照らす。ヘッドホンの中に無音で響く声。隣を見た、冷たい部屋に響くはずのない歌声。君の心にだってきっと届かない。
「サイケ?」
「臨也くん!あ、シズちゃんもおはよー」
「今日も元気だな」
相変わらずのことなのに、それはまるで偽善を装うかのようでつらい。
「津軽!津軽もおはよう!」
「おはよう…サイケ」
ちらっと臨也くんを見たら、楽しそうにシズちゃんとお話。
分かってるよ。
臨也くんはシズちゃんが好き。シズちゃんも臨也くんが好き。おれのちっぽけな想いなんて届かないなんて。
分かってた。
だから、疑問に思うことなんてない。
「あー!みてみて!雪!雪だよっ」
「本当だー、珍しいね」
「積もるかな?積もるかなっ」
「積もるといいね」
雪が積もったらね、皆で雪合戦したい!雪だるまも作りたいな!
なんて、笑いながら話すと臨也くんもシズちゃんも津軽も、楽しそうに笑った。
おれはこの関係が嫌いじゃない。臨也くんには幸せになって貰いたいんだ。だから気持ちなんて届かなくたって良いとも思った。
だけどね、幸せなんて、あっという間。
分かってたよ。
分かってたもん。
人間、は…そんなもんだって。
「臨也…く、ん?」
「か…はっ…」
「臨也くん!」
分かってた、もん。
おれは死ねないから、一生このままなのも。分かってたってば。分かってた…。
「ガン…?」
病室で起きた臨也くんは、苦笑いを浮かべながら病状を告げた。そんな苦笑いなんてしないで。ねえ、ガンって死んじゃうやつでしょ?
「嫌、いやだもん!臨也くんが死ぬなんて嫌だっ」
「サイケ…」
「嫌、」
だって、こんなにも好きなんだよ?
死なないで。
おれの想いを無駄にさせないで。
「臨也!?大丈夫かっ」
「シズちゃん…」
「おまえ…なんで無理なんか…」
病室に入って来たシズちゃんは、臨也くんに駆け寄ると眉を八の字にさせて、泣きそうな顔してた。
「大丈夫だよ。あー君が泣きそうだなんて、これは滑稽だ」
「ふざけてんな!」
「ふざけてないよ。いや、ふざけてるのかな。じゃないと…自分の弱さが出そうだ」
「…臨也」
シズちゃんは臨也くんを抱き締めた。
臨也くんは幸せそうに抱き返した。
そんな二人を見ていられなくて部屋から飛び出した。
「サイケ…?」
臨也くんにはシズちゃんが居る。おれなんて用済みかな。想うことさえ許されない感じがして言葉が出ない。
こんなにも溢れてるのに。
こんなにも壊れそうなのに。
ぶつける宛てなんてない。
叫びたい、君が好きだって。
君の灯火が消えるまでに、
おれは毎日、臨也くんのお見舞いに行った。もちろんシズちゃんが来るまで。シズちゃんが来たらお家に帰る。そんな毎日で。
「臨也くん、何歌ってるの?」
「んー?ああ、なんだろ。なんとなく浮かんだんだけど」
「教えて教えて!おれも歌う!」
臨也くんは小さく笑うと、オリジナルの歌を教えてくれた。凄く切なくて綺麗だった。おれも覚えたのを歌うと臨也くんはまた、笑った。
「綺麗な歌だね」
「そうかな」
「うん!」
そのあとシズちゃんが来たからおれは病室を出て家に帰った。
どんな形であれ、臨也くんの隣で笑っていられるなら良い。
いつかに見た雪も次の日にはほとんどアスファルトに溶けていた。あんな風に…臨也くんの心の中からおれたちは消えてしまうのかな。
うぅん、消さないでよ。
ここに居させてよ、
幸せでいさせてよ、
どうしてこのままじゃダメだったのかな。
「臨也くん!臨也くんっ!」
叫んだ。
それは想いではなく彼の名前を。
「いや、いやだ!」
冷たくて、目を閉じた瞳は開かない。
心拍数は0だった。
シズちゃんの家に夜、病院から電話が入ったらしい。おれに連絡が来たのは亡くなったときだった。
夜明け前の部屋、朦朧とする頭で、隣に居る臨也くんに手を伸ばしたのに。
もう、
――――届かない、
ほろりと流れる涙。もうダメなんだね、もう会えないんだね、もう届かないんだね、俺のちっぽけだったこの想いも、全部。
ヘッドホンの奥で聞こえる君の声も、笑う顔も、全部が残響して心を縛るんだ。
たとえば君に好きだと言えたなら、この未来は変わって居ただろうか。少しだけおれを好きで居てくれたかな。
「サイケ」
「つ、がる…津軽っ、津軽!」
「サイケ…っ」
抱き締めた温もりは、涙で濡らした。
君が最期に教えてくれた歌。それはとても綺麗だった。愛のある歌。きっとそれは愛する人に捧げた歌。
君が残した最期のうた。
おれは今日も歌い続けるよ。
(好きです、)
(無音で告げては反響した)
reverberationを聴きながら書いた…これはガチサイケの話だと思った(笑)