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Short story
あの星を目印にして






降下直後、戦闘の最中のことだ。
敵に肩を撃ち抜かれた仲間――ミラージュが、足を滑らせ崖下へと落下していった。
慌ててカバーに入り何とかその場にいた一部隊は仕留めたが、
崖下を覗き込むと既に彼の姿はなく、バナーへと変わっていた。


パーティメンバーにクリプトがいればそのバナーの回収もできたかもしれないけれど、
残念ながら私とオクタンではそれも叶わない。


私たちは早々に見切りをつけてとある岩陰に潜んでいた。


一人分の戦力が減る、というのは単純に他チームと比べて不利になるということだ。
その時点でもうチャンピオンの座は遠退いている。
相手はほぼ確実に3人いて裏取りだってしてくるはずで、相当うまく連携を取らなければカバーが追い付かない。


一方的に蜂の巣にされるのを恐れて慎重になってしまうのは致し方ないだろう。
――もう一人のパーティメンバーは不満そうだけれど。


「なぁ、おい、ごんべえ」


しびれを切らしたように、オクタンは私を小突く。
はす向かいにある建物の窓を窺っていた私は、
岩陰に体を収めてオクタンに向き直った。


「――何?」
「あの家に敵がいるのは間違いないだろ?
 他の部隊の奴らが来ないうちに、さっさと突撃しちまおうぜ」


返ってきた答えは予想通りだ。
彼の特性を活かすためにも、そうするべきではある。


ただ、どうしても不安が胸を埋め尽くすのだ。
何パターン戦況をシミュレートしてみても、
彼か私がダウンする姿が脳裏を過って撃ち勝てるイメージが湧かない。


「……でもオクタン、私たちたった二人なんだよ?」


だから、慎重にならないと。
そう彼を諭すように、落ち着かせるようにゆっくりと話す。
大丈夫、私は冷静だ。


でもオクタンは、寧ろそんな私に呆れたように息を吐いた。


「なんだよ、そんなこと気にしてたってのか?」
「そっ……!そんなことって何よ、私だって勝つために考えて――」


オクタンの言葉に激昂する私の肩に彼は手を置いて、
今度は彼が私を諭すように言葉を重ねる。


「そういうことじゃねえって!
 なあ、ごんべえ、俺のこと信じてねぇだろ?」


――信じてない?


そんなことない。
彼と戦場を共にするのはこれが初めてではないし、
死線だって何度も一緒に潜り抜けてきた。


それでも私が即答できずに口を噤んだのを、彼は責めなかった。
いつもよりほんの少しゆっくりと話してくれるその声色は随分と優しい。


「ごんべえ、俺とお前は仲間だろ?
 俺のピンチにはごんべえが駆けつけてくれたよな」
「……ミラージュもよ」


私が入れる茶々を受けてオクタンが一時停止する。
マスク越しでは表情は読めないが、何となくその間は真顔でいるような気がした。


それも一瞬のことだ。
次の瞬間にはまた、何事も無かったかのように少しオーバー気味に私に語り掛けてくる。


「で、ごんべえが危ない時、誰が来てくれた?俺だろ?」
「……ミラージュもよ……」
「……まあ、いいじゃねぇか細けぇことは」


ミラージュのことを枠外に置いておこうとするオクタンが少しおかしくて、
ふ、と笑いがこみ上げてくる。


でも、そうだ。
確かに私たちは仲間で、今まで助け合ってきたのだった。


「ごんべえの言う通り、俺たちは今二人きりだ。
 でも、だからこそお互いをもっと深く信じることができる。……だろ?」
「……そうだね、ごめん。オクタンのこと、ちゃんと信じるよ」


わかった、と頷いた私に、止めとばかりにオクタンがぐいと身を寄せてくる。


――近い。
彼のマスクがなければ彼の吐息が私の耳にかかっていただろう、と容易に想像できるほどに。


「俺が守る。だから、ごんべえも俺のカバー、頼んだぜ」


耳にオクタンの低い、いつもより落ち着いた声が流れ込んできて、
私はここが戦場だということも忘れて硬直した。
彼はこんなことを言う人間だっただろうか。
手を置かれた肩も、彼の声をダイレクトに受けた耳も熱い。


それらの熱が顔に移ってきたところで、ぽんぽんと肩を軽く叩かれて漸く我に返った。


急いでバッグパックの中身を確認する。
残弾数は充分。
グレネードもあるし、回復も足りている。
あの後もこそこそと物資を漁ったので、けしていい状況とは言えないが、まあ、悪くもない。


戦力不足はこの際、奇襲で補うしかないだろう。
身体に重くのしかかる緊張をほぐすようにゆっくりと息を吐いて、私は心を決めた。


「じゃあーー、まず私があの窓から覗いてるジブラルタルにアークスターを刺す」
「OK、その隙にこの足で俺が詰める。ジャンプパッドで屋上からだ」
「いいね。
 おまけでグレネードを投げ込んでから私も後を追うよ」
「よし、それじゃ――……戦闘、開始だ!」


オクタンが太腿に注射器を叩き込み、岩陰から飛び出していく。
それを視界に入れることも無く、私もアークスターを構えた。




あの星を目印にして
(title by:サンタナインの街角で 様)







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