撃ち合いの最中だった。
逃げるレイスを追って、隣の建物に入る。
その背に向かってヘムロックを連射したところで、ちり、と痺れる感覚がして動きが鈍る。
左側に大きく開いた窓から、アークスターが投げ込まれたようだ。
視線を動かすと、アークスターが脇腹に刺さっているのが確認できた。
投げ込んできたのは今さっき追っていたレイスの仲間だろうか。
だとしたらまんまと誘い込まれ、嵌められたというわけだ。
油断した、と思ったのも束の間だった。
思うように身動きが取れない中、目前にグレネードが転がったのが見えた。
――あ、終わった。
私はそう直感した。
というよりもそう思うほかない。
体の動きは鈍く、どう頑張っても飛びずさることすらできないのだ。
でもまあ、レイスのアーマーも剥いでやったし、いくらかダメージも与えた。
あとは仲間が何とかしてくれると思う。
殆ど諦めて衝撃に備えようとしていたが、なぜか足元のグレネードが起爆するより早く、私の足は空中に浮かんでいた。
抱きかかえられていると気付いたのはすぐだ。
目の前にマスク姿が見えて、背中やら膝裏やらに人肌のぬくもりを感じれば誰だってわかる。
高速で過ぎ去っていく景色に思わず振り返ると、既に戦地は遥か遠く、
すっかり安全地帯となった岩陰に下された。
移動中に体の痺れは取れている。
一瞬ふらついたもののしっかりと地に足をつけた。
ほんの少し早くなった鼓動を抑えつつ、
すぐに手の中のヘムロックをリロードして隣の彼を見上げる。
ここまで運んできてくれた彼は、丁度注射器を抜き捨てているところだった。
「ありがとう、オクタン。助かった」
その彼に礼を言った私は、でも、と顔をしかめる。
こんなに戦地から離れてしまっては、向こうも立て直してしまっているだろう。
特にレイスに関してはせっかく瀕死直前まで持って行けていたのに。
「どうしてあのまま攻めなかったの?あなたの腕ならあと二人、持って行けたでしょ」
「いや――ありゃ別パーティだろ」
私が聞き返すより先に、ついさっき逃げてきた方角から銃撃音が聞こえた。
オクタンの見立ては正しかったらしい。
別パーティがまた他からやってきたという可能性もあるけれど、どの道あのまま残っていてはオクタンも危なかった。
Apexゲームにおいては蘇生が可能とはいえ、どちらも動けるうちに移動できたのは大きい。
「――そうみたいだね。とにかく有難う」
「かまわねぇよ」
二人そろってシールドセルでアーマーの耐久値を回復しながらマップを確認する。
「パスファインダーも近いね、このまま合流してさっきの奴ら、漁夫りに行こう」
3人一組が基本のこのApexゲームのもう一人のパーティメンバーは、
斥候兵としての能力を存分に発揮してくれているパスファインダーだ。
あの戦地での戦いに有利そうな、高所にある岩山の場所取りをしてくれたようだ。
こっちへおいで、という通信とともに、私たちから少し離れたところにジップラインが設置された。
これに乗ってこいということだろう。
「イイな、さっきハボックに換えたんだ」
オクタンが背中に背負ったハボックに持ち替える。
やってやるぜ、と呟いた声の調子は明るく、今にも飛び出していきそうだ。
彼は薬中スタイル……失礼、興奮剤を用いて移動速度を上げ、戦地をひっかき回すのが十八番だが、
その移動速度でもってスナイプポイントを変え、また撃つという戦闘スタイルも得意だ。
あそこは比較的広いようだし、反対側に移動することも可能だ。
それに飛び降りて奇襲をかけるにもいい。
彼にとっては十分フィールドといえるだろう。
かく言う私も、早々にヘムロックからトリプルテイクに持ち替えている。
スナイプも得意というほどでもないが嫌いじゃない。
「うん、イイね。軽くぬいてから距離詰めよろしく」
「Si!ごんべえ も遅れんなよ!」
二人揃って顔を合わせてにやりと笑い――オクタンの表情はマスクで読めないが、多分同じ顔をしていたのだと思う――、
勢いよくジップラインに飛び乗った。
戦場では恋心なんて持つだけ無駄だ。
今はとにかく生き延びなければ。
すぐ目の前を行くオクタンの引き締まった背中を見ながら、私はトリプルテイクを握った手の甲で口を覆う。
その口元はだらしなく緩んでいた。
……でも、ほんの少し夢を見るくらいなら、いいよね。
私は頭を軽く振り表情を引き締め直し、オクタンの後を追い岩山に降り立つ。
そうして彼らは各々の目的のため、また戦地へと身を投じるのだ。
(title by サンタナインの街角で)
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