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Short story
春を告げたのは誰か



寒気を感じてぶるりと身震いする。長屋の廊下で布団を被り、身を寄せ合っている私達はまるで蓑虫のようだ。ただの日向ぼっこのはずだったのに、どうしてこうなった。

「……いやー、漸く春めいてきたとは言えやっぱりまだ寒いねえ」
「当たり前だ、まだ雪だってとけてないぞ馬鹿」

……そりゃそうだけど。どう考えても最後の一言は不要だよね!
陽は照っているから暖かいはずなのに、吹き抜けていく風が冷たい。動く気力すら奪っていくそれに、日向ぼっこの意味を見失ってしまいそうだ。

「ごんべえは、どこら辺が春めいてきたと思ったんだ?」

豆腐を食べつつ(こんな状態になってまで!)問いを投げかけてきたのは兵助だ。それを横目で見て、質問の答えを考える。
……なんでだろ。
三郎の言う通り雪だってとけてないし、廊下を風が吹き抜けていく度、身を縮こまらせないとやってられない程寒い。

「……分かんない。何でだろうね」
「何だよそれ……お前が春らしくなってきたしって日向ぼっこ提案したんだろうが」

せっかく私たちが付き合ってやってるのにこの馬鹿、と三郎は悪態を吐く。そう、この計画を提案したのは私。このいつもの顔ぶれに声をかけたのも私、だけど。いくらなんだってひどい。

「…うるさいな、確かに春っぽい気がしたの!」

腹は立つのに馬鹿なのは否定できない。もう三郎は放っておこう。後、聞いてきた本人の兵助ももう豆腐に夢中のようだから放っておく。少しだけ身を乗り出して、隣に座っている兵助の向こう側で布団にくるまっている友人に尋ねた。

「ね、雷蔵と勘ちゃんはどう思う?」
「僕?僕はそうだなあ……春になるにはもうちょっと掛かりそうだと思うんだけど」

寒いし、と言った雷蔵の表情は苦々しいものだった。……ごめん、雷蔵…。

「勘ちゃんは?」
「…ん?何か言った?ねえそれより今日のご飯なんだろうね、俺蕎麦がいいな」
「……さあ」

コイツはもう論外だ。食べるの好きだな、勘ちゃんって。
結局みんなまだまだ冬、っていう考えのようだし、私の感覚おかしいのかな。溜め息を吐いたところに、私の話を露ほども聞いていなかったであろう勘ちゃんがぽつりと呟いた。

「……そういやさ、」

みんなの視線が一様に勘ちゃんに集まる。

「八左ヱ門は?」



「……あ」


いつもはこの5人に竹谷も入っているのだ。でも今回は声をかけなかった。自分でそうしたのに、すっかり忘れていた。

「八左ヱ門は確か、委員会じゃなかった?」

雷蔵が思い出したように言う。そう、竹谷は委員会活動中だった。

この間、竹谷が後輩の孫兵と話している所を見てしまったんだ。きっと冬眠から覚める毒虫たちを見に行くんだろうと思った。
予想通り今日、彼らは様子を見に行ったようで不在、この日向ぼっこもどきには誘わなかった。

冬にはいるときはあんなに沈んだ顔をしていたのに、この時期の竹谷の嬉しそうな顔と言ったら。
まあ、毎年のことだけど。

と、そんなことを考えていたら竹谷が戻ってきた。廊下に一列に並び布団を被っている私たちを見て唖然としている。そりゃそうだ。
僅かに沈黙が降りる。何これなんか凄い引かれてない?誠に遺憾です。遺憾ですとも。

「……え、何やってんのお前ら」
「……日向ぼっこ」

その言葉を聞いた竹谷が怪訝な顔をした。

「まだ寒いだろ」
「…寒いね」
「凍える」
「しんじゃうかも」
「おなか減った…」
「豆腐うまい」

後半二人は答えになってないが、まあそれは置いておくとして。
全員一致の寒いという答えに益々訳が分からないという顔をした竹谷に、全員で苦笑いを送る。


「誰だよ企画した奴」
「ごんべえ」

おい三郎即答すんなどんだけ根に持ってんだばか!

「…だって竹谷が嬉しそうだったんだもん」
「……は?」

なんで俺が出てくるんだと困惑している様子の竹谷から逃げるように、私は立ち上がった。

「あれ、ごんべえどこ行くの?」
「もうお昼だから食堂!」
「あっずるいごんべえ!俺も行く!!」

雷蔵の問いに答えると、勘右衛門が間髪入れずに立ち上がって、先を歩く私を追いかけてくる。

後ろで三郎が、お前から誘っといてなんだよ!とかなんとか叫んでいたけれど、私は私でいっぱいいっぱいなのだ。


冬眠から覚めるのは春先だ。毒虫たちが起き出してくれば竹谷は喜ぶ。竹谷の表情で春かどうか判断してたことになる、のかな?

「お陰でみんなに寒い思いさせちゃったよ…」
「ん?なんか言った?」
「…なんでもない!」

ちくしょう竹谷め、いつもはもうちょっと遅いくせに。

日向ぼっこ、竹谷は絶対誘ってやらないんだから!




春を告げたのは誰か


***
この夢主さん訳が分からない。自由すぎるわ…
多少の我が儘を文句ぶー垂れながらも許してくれる五年とあおいはるを過ごしたい





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