ss | ナノ

Short story
染み込んだ砂糖は分離できない



私には好きな人がいます

優しくておもしろくて、笑顔の素敵な方です

けれどその人には、色恋よりも大切なものがあることを

ずっと彼を目で追い続けた私は知っています

「よお兵助」
「何だよ竹谷、まさかまた…」
「悪い、宿題見せてくれ!頼む!」
「兵助、竹谷に見せるなら私にも見せてくれよ」
「三郎まで…ハア、仕方ないな全く」
ああ、やっぱり。いつも一緒にいるあの人たち。
あの人たちといるときの彼の顔は、特別輝いているように思える。
仲間を大切に思う彼を、私は好きになった。

「…ん?もしかしてごんべえさんも終わってねえの?」

いきなり竹谷くんが私に話しかけてきた。驚きと緊張で酸欠になりそうだ。くらくらと回る頭で必死に、返事、返事を早くしなくちゃ、と考えて、うまく動かない口を無理やり動かした。

「……あっ、いや、私はもう終わってる、よ」
「そうなのか…凄いなー、俺なんか全然分かんなかった」
「……だって竹谷くん、今回の範囲の授業の時、寝てたもんね」

豪快に涎を垂らしながら睡眠学習をしていた彼を思い出して、少し笑ってしまった。

「えっ、嘘だろごんべえさんに見られてたとか…うわあ恥ずかしい!」
「あっ、……ご、ごめん」
「え?あ、いいって!俺が寝てたのが悪いんだしさ!それにごんべえさん、笑ってた方がかわいいと思うぜ!」
「えっ、」
「おい竹谷、真面目にやれよ!やんないならもう見せないぞ!!」
「あ、悪い兵助!今いくって!じゃあな!」
また、竹谷くんは素敵な笑顔を残して、仲間の輪に戻っていった。

やめてよ、お願い。

期待させるようなこと、言わないで。

私にそんな、綺麗な笑顔を向けないで。


叶わない恋だから、この好きを消してしまいたいと思ってた。
あんな風に笑われたら、また好きになってしまうよ、竹谷くん。
竹谷くんの笑顔と言葉が、砂糖菓子みたいに私の心に甘く溶けていく。



「…すきです」

涙がひとしずく、頬を伝った。





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