静まり返った屋敷の中では広間に妖怪たちが大集合していた。
並べられた食事は豪勢で、それを囲む妖怪たちの雰囲気はどこかそわそわしている。
皆の視線は一点に集まっていた。
いつもの着流しではなく紋付袴を着たリクオと、白無垢に包まれたつらら。
もう中学生だったあの頃の二人はここにはいない。
そして今日からは関係も変わる。


「緊張してるのかい?」

「そ、そんなことは…!」


烏天狗の長い話に飽きてきた頃、リクオは隣で固まっているつららに控え目な声で話しかけた。
化粧の施された顔はいつもより大人びて綺麗に見えるが、表情が硬くては台無しだ。
一生に一度の祝いの席で緊張しているのは確かかもしれないが、隣から余裕の笑みと共に妖しい瞳で射抜かれては言い返す言葉がなかなか見つからない。


「それでは、お二人には夫婦の契りを結んで頂きます。」


内容など覚えていないがようやく烏天狗の話が終わり、代わりに始まろうとしているのは三三九度の儀式。
用意されているのは大中小三組の杯。
注がれるお酒はとても神聖なもので。
リクオは持った杯を少し見つめ、そのまま口を付けた。
唇に伝う液体を味わう間もなく杯から口を離し、つららへと手渡す。
受け取った杯を大切そうに包み込みながら、つららもリクオと同じように杯に口を付けた。
そして再び杯はリクオの元へと帰っていく。
リクオはつららと交わった視線に微笑みを返し、つららの笑顔を確認してから杯に再度口付けた。
口内に流れゆく液体に誓いを重ねながら喉の奥へと運んでいく。
最初で最後の、夫婦の永遠の契りを結ぶ大切な儀式。
その後も何度も杯を重ねながら確かな縁を結んだ。
取り交わした杯に互いに永遠を誓いながら…。








*************








「リクオ様、こちらにいらしたんですね。」

「つららか…。そんなとこ立ってないでこっち来て座んな。」

「はい…。」


三三九度の後、指輪の交換が終わると一気にその場は宴会となった。
主役そっちのけで盛り上がり料理と酒が大量に消化され、めでたいめでたいと騒ぎながら時間は過ぎて行った。
すっかり落ち着き屋敷の中も静かになったころ、リクオはいつもの着流し姿で縁側に腰を下ろしていた。
見上げた空に目映く浮かぶ満月はふんわりと優しい光を降らせている。
つららは、やらなくてもいいと言われていたにも関わらず後片付けを手伝っていたが、「早く旦那様のところに行きな」と毛倡妓に言われ台所を追い出されてしまっていた。
広い屋敷の中を目的地へと向かって歩を進める。
恐らくあそこにいるであろうという確信を持ちながら夜空がよく見える縁側へと行けば、案の定そこにリクオはいた。


「もう片付けは終わったのかい?」

「…追い出されてしまいました。早くリクオ様の元に行きなさい、って。」

「へぇ。気が利くじゃねぇか。それじゃ二人きりを楽しむとするか…。」

「あ、あのっ、リクオ様…っ!?」


何度も間近で見たことのあるはずの顔は、やはり何度目であっても慣れることは無くて。
迫る端正な顔に見つめられるだけで体は金縛りにあったように動かなくなる。
甘く疼く熱はきっと永遠に冷めることは無いだろう。
つららは目を閉じ、これから重ねられるであろう唇を静かに待った。
しかし、唇よりも先に左手に違和感を感じた。
最初は握られているだけなのかと思ったが、目を開けてみればつららの左手はリクオの口元まで運ばれており、まさに口付けされる寸前だった。


「リクオ様…?」


ちゅ、という軽いリップ音とつららがリクオを呼ぶ声は同時で、二つの音は重なり合い静寂に溶けていく。
つららの左手薬指、先ほどはめられたばかりの指輪にリクオの唇が落とされていた。


「こんなにきれいな指輪でもよ…。あんまり綺麗な意味はないよな。」

「それはどういう…?」

「これは俺の独占欲の証だぜ?お前は生涯俺のモンだ、っていうな。」

「…でしたらこの指輪も同じ意味ですね。」


言いながらつららはリクオの左手で光る指輪に触れた。
愛しそうに撫でながらリクオと同じようにその指輪に口付けを落とし、真っ直ぐにリクオの瞳と向き合う。


「リクオ様の隣が私であるように、私の隣も生涯リクオ様だけです。」

「…あぁ、永遠にな…。」


今宵浮かぶ金の月に誓おう。
深淵の闇に漂う満月に寄り添い光る星のように。
悠遠の彼方へとその光を落とすまで。
尽きることの無い愛で天を射し、果ての無い想いで満たし続けることを。
柔らかに落ちてくる月灯に照らされながら、久遠へと続く路を共に歩き続けることを…。











悠遠の果てまで




■END■






アトガキモドキ
kurocyi様リク、『夜リクつらで、猩影くんに嫉妬か、未来話でぜひ二人の祝言』でした!
猩影くんに嫉妬は他の方のリクで書いたので今回は夜リクつらで祝言話を書かせて頂きました。
祝言のシーン少ないし私の知識が浅いせいでよくわからない祝言になってしまい申し訳ございません…!
三三九度は神式の儀式なのですが…未来のリクオとつららがどういう祝言を挙げるのか想像出来なかったのですが、杯を交わすようなのが似合いそうだなと思い勝手に神式の結婚式にしてしまいました。
こんな駄文になってしまいましたが、二人の祝言を書くことが出来てとても楽しかったです!
リクしてくださりありがとうございました!
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