「なんだよ…うっせぇなぁ…」


無機質な機械音が枕元から鳴り響き覚醒しきらない頭でディスプレイを見る。
そこには知らない数字の羅列が。
時計を見ればお昼を少し過ぎたところ。
あぁ、そうだ、満腹になって寝てたんだと、隣で健やかに眠るベル坊を見て思い出す。


「…うぅ…ァー…」

「やっべ…!」


しつこく鳴り響く着信音が気に入らないのか、このままでは落雷させながら起きてきそうなベル坊。
起きて早々あの電撃はきつい。
さっさと電話に出て切ってやろうと思って通話ボタンを押した


『やっと出たかー。いったいどんだけ待たせるつもり?』


かけてきたのはそっちの勝手だろう。
声の主に心当たりは無いし切ってしまえ。
そう思って携帯を耳から離そうとしたとき…


『アンタのヨメ、今大変なことになってるぜ?助けに来たほうがいいんじゃない?』


嫌な笑いが複数人分、電話を通じて俺の耳に響く。
切ろうと思っていたのに気付けばしっかりと携帯を持ち直していた。
どうも嫌な予感がする…。


「…あ?俺にヨメなんざいねぇよ。」

『ふぅん?じゃあこの金髪美女がどうなってもいいってことだな。』


あぁ、やっぱりあの女のことか。
そういや前にも拉致られてなかったか?
あの時はわざと掴まっていたようだが…
どうせ今回も同じようなものだろう。
大体、あの女は悪魔なんだからその辺にいる人間の男に負けるはずが無ぇ。
俺には関係無ぇ。
俺には関係無ぇ。
俺には関係無ぇ。


「…どこにいんだ?」


関係無いはずなのに気付けば居場所を聞いてる自分がいた。
関係無ぇ、と何度心で思ってもどうやら体は拒絶するらしい。
ざわつく胸に呪文のごとく「関係無ぇ」と繰り返しても、ドクンドクンと煩くなる心音が俺の体の血液を熱くし、頭の考えとは別の行動をさせる。


「ったく…あの女…。また試してたとかだったらタダじゃおかねぇぞ…!」

「アー…、」

「おう、ベル坊起きたか。今からお前の母親がわり連れ戻しに行くぞ。」

「…ダ!」


そうだ、俺はこいつの面倒を見るヤツがいなくなると困るから連れ戻しに行くのであってそれ以外の感情なんて無ぇんだ。
だから無駄に煩い心臓やさっきから脳内でチラつくアイツの姿なんかは全部ベル坊のためであって別に俺自身があいつを心配してるかじゃ無ぇんだ、絶対…!
自分を納得させて連絡手段である携帯だけをポケットに突っ込み家を出た。






***********






おいおいおいおい…。
何で本当に気絶して倒れてんだよこの女は。
しかもあの真っ黒な服がところどころ破れてんじゃん。
こいつ悪魔じゃなかったか?
だって初登場時なんてでっかい鳥召喚してたじゃん!
ただの人間に負けるはずねぇだろ!
あーあーあー。
なんだろうなぁ、何でこんなイラつくんだろうなぁ。
電話で言われた廃ビルに来てみれば縄で縛られた状態で床に転がってるヒルダが。
その周りに数人の男たち。
俺のこと恨んでるような口ぶりだったけどまっっっったく思い出せん!
つーかそれより問題は…


「やっと来たか、お…ガフッ…!」


やった奴見つけてやり返すことだよな!
とりあえず近づいてきた奴を殴っといた。


「…で?誰がこいつをこんな状態にしたわけ?」


ヒルダを見て言えば、全員今の一発で気絶した男を見ていた。


「ダ!ダッダッ!」


背中にくっついてるベル坊が俺の肩を叩きながら何かを言ってる。
あぁ、そっか、だよなぁ。


「わかんなければ全員ぶっ飛ばしとけば間違いねぇよな、ベル坊?」

「ダ!」

「ちょ、まっ…!」

「待つわけねーだろ!」

「ぐあ…!」


この女を拉致った時点で死刑決定だっての。









***********






「む…。ここは…?」

「よう、起きたかよ。」

「うむ。…しかし起きて早々見る顔が貴様とはな。」

「んだとぉ!?」


こっちの気も知らないで今までずっと寝てたヤツと開口一番からケンカが始まりそうになったが、ヒルダの隣から聞こえてくるベル坊の穏やかな寝息によって自然と無言になる。
俺だって電撃食らうのはごめんだしな。
けどよ…、


「坊ちゃま…。ゆっくりお休みください。」


俺には向けたこと無いような綺麗な笑顔でベル坊に囁くその姿にはなんとなく納得出来なかった。
こいつの頭の中はベル坊のことだけなのかよ、とか。
俺と話してたのすぐそれかよ、とか。
助けてやったのに礼の一言も無しかよ、とか。
自分らしくない考えばかりが浮かびなんかもうどうでもよくなってくる。


「一つ聞きたいことがあるのだが、」

「…なんだ?」

「なぜ私はこんなダサいシャツを着ているのだ?」

「ダ、ダサいだと…!?」


こいつの服はぼろぼろだったし替えの服を着せた方がいいと思ったけど姉貴もおふくろも出かけてていねぇし勝手に脱がせるわけにもいかないから俺のTシャツを上から着せといてやったのに。
それをダサいだと…!?
俺のお気に入り、「おとん」Tシャツだぞ…!?


「つーか、お前何も覚えてないわけ?」

「そういえば…何かピリッとした感覚の後は何も…。恐らくスタンガンか何かで気絶させられていたのだろうな。」

「拉致られてたんだよ。俺とベル坊が助けに行ってなかったらどうなってたか。」

「フン。そんなもの、私の目が覚め次第アクババを呼ぶに決まっておろう。」

「あーそうですかー。…ったく、助け損だぜ。」


必死になってた俺がバカみてぇ。
もう二度とこの女なんか助けにいかねぇ。


「なぁ、おい。」

「あ?」

「この“おとん”という文字は父親、つまり男のことだろう?」

「それがどうしたよ?」

「私は女だからな。これは着れぬ。…だから、つまり…」


何か言いにくそうにしながら視線を彷徨わせてる。
らしくない態度に俺の頭の上は疑問符でいっぱいだ。
なんだ?何が言いたい?


「つまり…!次はこれの女版を用意しろということだ…!」

「…あ!」

「…フン…!」

「よし起きろベル坊!買い物に行くぞ!」

「ァー…?」


おかんTシャツを買いに!
この女が“おかん”で俺が“おとん”…!
シャツの文字ごときで嬉しくなる俺はやっぱり変だ。
でも嫌な気分はしないから良しとしよう。


「では私は記憶に無いとは助けてもらったようだしな、礼としてコロッケでも作っていよう。」

「げ…!頼む、それだけはやめてくれ…!」

「ダァ!」

「そうか?ならばメンチにしよう。」


以前食わされたコロッケの味を思い出し何としても阻止しなくてはと思うも、ご機嫌な様子の女を見てたらもう何も言えない。
俺とベル坊の願いは結局通じず、今日の夕飯という名の地獄からどうにかして逃げられないだろうかと考えながら家を出るしかなかった。




■END■





アトガキモドキ
神崎夏姫様リク、『ヒルダが珍しくピンチで焦る男鹿』でした!
夏姫様、リクしてくださりありがとうございました!
まずはやっぱりアレですね、ヒルダが偽物な件についての謝罪からですよね。
最後のTシャツのあたりのヒルダが自分で書いてても「誰だこいつ?」という状態だったのですが、私としてはヒルダにも「おとん」と書かれたシャツを着せたかったのです、はい、ただそれだけなんです…!
そして「おかん」シャツを欲しがるヒルダを書いてみたかったんです…!
あれ、おかしいな、リクはヒルダのピンチで焦る男鹿のはずなのにそのシーンが少ない…というより皆無?
ああああ、本当にこんな駄文になってしまい申し訳ございません…!
リクしてくださりありがとうございました!
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