愛されていたかった
他の誰かではなく貴方だけに愛されていたいの
小さい頃から隣に在る優しさが当たり前過ぎて…
きっとずっと一緒だと思ってた…
愛していたかった
他の誰でもない彼だけををいつまでもずっと
闇に輝く妖に心奪われ囚われていたいの





**********





「ねぇ、リクオくん、今日一緒に帰れる?」

「あ、その…ごめん、今日は日直の仕事があるからカナちゃん先に帰ってて?」

「それじゃ待ってるよ。あ、私も手伝おうか?」

「いや、でも…、」


カバンを肩に引っ提げながら下校の準備をする生徒たち。
その中でただ一人、リクオだけが黒板消しを持って黒板に書かれた白い文字を消そうと手を伸ばしていた。
いつもというわけでは無いが、こうして誘われることは度々あった。
前までなら一緒に帰ったり仕事を手伝ってもらっていたのかもしれない。
だが今は…


「リクオ様!花瓶のお水替えて来ましたよ!」

「ありがとう、つらら。」


つららが、いる。
リクオは花瓶を受け取ってカナの方へと向き直り、一言。


「つららが手伝ってくれるし、遅くなっちゃうと思うからカナちゃんは先に帰ってて。」


リクオからしたら申し訳ないという気持ちがあったのだろう。
だがカナからしてみればそれは笑顔と共に紡がれる残酷な言葉でしかない。


「うん…わかった。それじゃ、また明日ね…。」

「バイバイ、カナちゃん。」


浮かない気持ちのままカバンを肩にかけなおし、視界の隅にリクオとつららを追いやりながら教室を出るためカナは扉に向かった。
まだ秋の到来を感じさせない夏の暑さに反応して汗が不快に流れていく。
額に浮かぶ汗を拭いながら開けた扉を閉めようとした時、嫌でも見たくない人物たちが視界に入ってしまった。
つららがリクオの顔にハンカチをあて優しく汗を拭き取っているところを。
それは以前にも見たことのある光景なのに、あの時よりも心の中で渦巻く黒い物が成長しているように感じた。
勝手に嫉妬して勝手に落ち込んで…。
それが醜い行為なのかもしれないと思っても簡単に消えてくれる物では無い。
カナは幼馴染に対する自分の気持ちがわからず、また胸のもやもやの正体もわからずに持て余していた。
リクオとつららが一緒にいるだけでどうしてこんなにも気分が沈むのか。
カナは名前の付けられない感情に悩みながら人通りの多い街の中に消えていった…。






************






「ん?カナちゃんか?」

「え?」


聞いたことのある、だが決して耳に馴染むほど聞いたわけでは無い低い声に呼ばれ後ろを振り返るカナ。
そこには着流し姿の妖怪の主が立っていた。
まだ日中は暑いとはいえ夜は涼しさの含んだ風が吹く。
やっぱり羽織も持ってくればよかったか、なんて囁きが聞こえた気がしたがカナにとってはそんなことよりも突然の再会にどう反応をしていいのか、急に忙しくなった心臓にどう対処すればいいのかが重要な問題だった。


「カナちゃんはコンビニの帰りかい?」

「えっ?あ、はい…!」


自分が持っている袋に視線を感じ、そういえば暑いからアイスを買いに行ったんだと思いだした。
言われるまで自分がどうしてこの袋を持っているのか忘れてしまうほどに、思考回路が目の前の男でいっぱいになっている。


「こんな遅い時間に一人で歩いてると危ないぜ?」


いつの間にか隣に来ていた存在にどうしようもなく胸が高鳴る。
何度も助けられ、その度にもっと知りたいと思いながらも妖怪ということ以外は何もわからなくて。
もっと一緒にいたくて、
もっと私を見てほしくて、
カナは抑えられない気持ちに従うように隣を歩く男の着物を掴もうとした。
そのとき…、


「ッ、カナちゃん…!」

「きゃっ…!」


一台の車がスピードを緩めずに駆け抜けていった。
最初は左手に違和感を感じた。
次に全身に感じる熱。
包み込まれているような感覚に一瞬何が起こったのかわからなかった。


「…っぶねぇ…、大丈夫かい?」

「あ、あの…ありがとうございます…。」


未だ繋がったままの左手に少しの恥ずかしさと嬉しさが混ざり合ってカナの顔を熱くしていく。


「そういや…昔もこうやって手を繋いだことがったな…。」

「…え?昔…?」


どうしたものかと悩んでいたら、隣から昔を懐かしむような声が聞こえ思わず聞き返してしまった。
出会ったのは最近だ。
こうして手を繋いだ記憶は、自分の知る限りでは無い…。
横抱きにされたことならあるのだが…。
いつのことを言われているのかわからなくてカナは視線で疑問を投げかけるが、それはさらりと妖しい笑みに流されてしまった。


「あ!やっと見つけましたよ若!」

「納豆小僧?どうした?」


これも妖怪だろうか、と胸の中で思いながらカナは狭い歩幅でこちらに駆け寄ってくる小さな妖怪を見つめた。
切羽詰まった表情で納豆の匂いを撒き散らしながら探し出した人物を見上げている。


「雪女が怒っちゃって大変なんですよ!今日は借りた映画を一緒に見るはずなのにとかなんとか…。若が勝手に出て行かれるのはいつものことですが、せめて雪女に言ってからにしてください…!じゃないと屋敷が真冬状態で…!」

「まぁ…わざと言わなかったんだがな。」

「ちょ、若ぁ!?頼みますよ!屋敷の異常気象をどうにか出来るのは若だけなんですから…!」

「わかったわかった、今すぐ帰るよ。あいつの機嫌取るの大変だしな。」


それも楽しいけどな、と続いた言葉はここにはいない人への愛しみが感じられた。
その一言でどんなに大切にしているのかがわかってしまうほどに…。
自分には向けられたことの無い、ただ一人だけに向けられた愛しそうな微笑み。
カナは先程までの舞い上がっていた気分が急降下するのを感じながら繋がれたままの左手を見た。


「じゃあな、カナちゃん。気をつけて帰れよ。」


そう言い残し、あっさりと解かれた左手。
繋がれていた手は温かくてもカナの欲しい熱はきっと永遠に流されない。
重なっただけの掌。
絡めらることの無かった指先に寂しさと切なさを感じながら、重なることの無い想いに虚しさだけを宿らせる。
それでもほんの少しの時間を共に重ねられる喜びをカナは感じてしまった。
たとえ芽生えても意味の無い物だとしても…。




************






愛されていたかった
他の誰かではなく貴方だけに愛されていたいの
小さい頃から隣に在る優しさが当たり前過ぎて…
きっとずっと一緒だと思ってた…
愛していたかった
他の誰でもない彼だけををいつまでもずっと
闇に輝く妖に心奪われ囚われていたいの
幸せでした
貴方の傍にいられて
幸せでした
彼の温もりを感じられて
幸せでした
こんなにも人を好きになることが出来て
もう一生これ以上の恋なんて現れないから
幸せだけを抱きしめても土砂降りの痛みに貫かれる覚悟はまだ無い
この恋を忘れさせるにはまだ早いの
だからもう少しだけこの恋を唄わせて
真っ白な名も無き花を咲かせることが許されないのなら、どうか蕾のまま冷たい冬に眠らせて。
どうか今だけは…
遠い記憶に眠る貴方と共に笑い合った思い出を、
どうか今だけは…
左手に残る彼の温もりは私だけのものだと、
そう哀れな錯覚を私にさせて。










愛を嘆く少女






■END■





アトガキモドキ
神崎夏姫様リク、『昼夜リクつらでカナちゃんとの三角関係で最終的にリクつら』でした!
夏姫様、リクしてくださりありがとうございました!
そしてご希望に添えていない駄文になってしまい申し訳ございません…!
昼夜リクつら←カナ…これはどう書いていいのかわからなくてなんだかカナちゃんが二股かけようとするもどっちも玉砕に終わる、みたいな感じになってしまいましたね、すみません…!
しかもつららの出番がほとんど無いという…。
とてもわかりにくい文章になってしまいましたが、書いていてとても楽しかったです!
本当にリクしてくださりありがとうございました!
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -