バス | ナノ


バスの運転手な阿部と予備校通いの榛名。








『次はー北営業所前ー。お降りの方はお知らせ願います』

『ハイ次とまりまーす』




いつもの時間、いつものバス。
見慣れた景色と、見慣れた後頭部。



(今日はちょっと、声ガラガラしてる)



わかっていた。何かの変化を望むならば、大抵の場合待っていても仕方がないということくらい。










都心からは程遠い、さびれた街を走るバスには、自分とじいさんばあさんしか乗っていない。

公務員試験のために通い始めた予備校に通うために、ひと月前から朝早くに出る都市バスを利用し始めた。

その頃から、俺にはひとつ楽しみが出来た。

平日の朝のこの時間はいつも同じ運転手で、名前は阿部隆也という(直接聞いたわけではない。運転席のうしろにネームプレートが付いているのだ)。青い制服と帽子がよく似合う青年で、たぶん俺と同い年かちょっと若いくらい。
始発の駅前から乗り込むと、はにかんで、おはようございます、と言う。そして帽子を少し浮かせる。
その顔を見ると、なんかこう…今日も頑張っちゃおうかなーとか思えて、頬の筋肉が緩くなる。

つまるところ、俺はこの運転手が気に入っていた。
乗客全員に対してあたたかく、律儀に一人一人声かけるところとかは好感が持てるし、あとは時々見える運転中の眼差しだとか手つきだとか。

――惹かれる、というか。

見ていても飽きない。
話してみたりもしたいけど(良い声だし)、こうして特等席からの、俺だけの阿部隆也を見ていたい気もした。


いやいや俺だけのって何だ。
阿部隆也はこの街のみなさんのもんだ。病院通いのおばあちゃんやらの心の支えになっているはずだ。
俺もその一市民である。


バックミラー越しに目が合った気がして、なるべく自然にフロントガラスに視線を反らした。









続けたい…といいながら続きませんでした。
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