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この神官はチート

禁呪を習得しておいて何事もなく人生が過ぎ行く訳もなく、クリフトの時はあれ以来止まってしまった。細胞が呼吸を止めてしまったかのように、クリフトの体は衰えない。それは同時に、一つの場所に長く身を置けないことを意味していた。各地を点々とすることに疲れたクリフトが自分に封印魔法をかけるという考えに至ったのは、世界が平和になって数十年が経過した頃だった。思いついた当時は名案だと思っていたが、冷静になってみると血迷ったとしか思えない。今思えばあの時は完全に深夜テンションだった。閑話休題。
しかしながら、まあ1000年ぐらい経てば不老不死の秘薬でも完成してるんじゃないかなあ、という希望的観測はどうも甘かったようで、目覚めた世界は未だに平均寿命が二桁だった。もう1000年寝るか、と二度寝の感覚でぼんやり考える。体内時計と思考回路は、職務を放棄して久しかった。

折角だから寝る前に観光でもしよう。
暢気なことを考え、伸びをする。どうせ次に目が覚めるのはずっと先だ。
1000年ぶりに動かした体は、各所から並大抵の擬音では表しきれない異様な音がした。

様変わりした建築、進歩した技術。見慣れない光景は幼い頃に本で読んだ空想都市のようだ。軽い足取りで町を歩きながら、ふと首を傾げる。恐らくは町一番の大通りであろうその道は、不自然なほどに閑散としていた。偶然通りがかった青年に、何かあったのかと訊ねる。知らないのかと訊ね返され、正直に頷くと彼は目を丸くして黙ってしまった。信じられない、と目が語っているが、クリフトの情報網は1000年前で更新を止めてしまっている。

「貴方、まさか知らないんですか?魔王が復活したんですよ!」
「…………へ?」
今度はクリフトが目を丸くする番だった。そそくさと去っていく青年に礼を言うのも忘れて立ち尽くす。束の間の観光気分は、魔王復活の報せによって呆気なく終わりを告げた。
「ピサロさん何やってんですか……」
かつて共に旅をした銀髪の魔族を思い浮かべながら、ぼそりと呟く。仰いだ空は、雲一つない快晴だった。




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