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ゴト、と何かを置く音がする。顔を上げて見ると、鈍く光る腕輪が置かれていた。同じものを自分の腕につけながら「それ、つけとけ」と言う彼の語調は素っ気ない。強大な魔力が込められた宝石の周りをぐるりと取り囲むように彫られた呪文は究極の自己犠牲。持ち主の生命反応が消えたのを感知すると発動する仕組みになっている。

「……悪趣味なお揃いですね。」
「うるせ、いいからさっさとつけろ。」
「他の方には?」
「ねえよ。いくらすると思ってんだ、これ。」
「それもそうですね。」
「…それに、死なせる気もねえし。」
やや間を置いてから零れ落ちた言葉は、強固な意志を含んでいた。瞳には強い光が宿っている。もしかしたら、魔族の王に挑む日はそう遠くないのかもしれない。それにしても、自分の命すら守れない人間が他人の何を守る気でいるのか。そんな簡単に死なれてはこちらが困る。

「ソロさん酷いです、私は死んでもいいってことですか?」
大袈裟に口許を覆って眉を寄せてみせると「ばかじゃねえの」と呆れたように笑われる。深く追求されなかったことに安堵しているのが一目瞭然だ。それに笑い返して腕輪を手に取る。ごつごつとしたそれは、予想を裏切ることなく重かった。剣が振りにくそうだ。口にしたら馬鹿にされそうなので言わないけれど。

「私、お揃いってちょっと憧れてたんですよ。」
留め具を調節しながら何気なく口にする。怪訝そうな顔をして「はあ?」と聞き返した彼の腕には腕輪が光っていた。なかなかはまらない留め金に苦戦していると、見かねたように横から腕が伸ばされる。ぱちん、と音がした。
「だって、こういうのって恋人っぽくないですか?」
「お前さあ、頭でも打ったんじゃねえの?」
「そんなひどい」
腕輪をつけるために捲ったシャツの袖を戻す。埋め込まれた宝石が、淡く光を帯びた気がした。
「ずっと、お揃いでいましょうね。」
目一杯の嫌味を込めて笑顔を向ける。彼の目が見開かれた。バカですね、気づかないとでも思ってるんですか。

(130306)



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