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穢れを知らないと。綺麗だと。いつであったか、皆様は私をそのように言ったことが御座いました。私の表面は一分の隙も無く白く塗り固めてあるように見えたのかも知れません。ですがその実はとうの昔に醜い何かで汚れきってしまっていたので御座います。戦いに際して、私は剣を突き立てることを致しません。炎や氷や風を生み出すことも、拳を突き出すことも致しません。前線から一歩引いたところで癒しの言葉を紡ぎ続けるのを常としておりました。我が身に危険が差し迫った時に初めて、私は怯えた少女のような表情を作って唇の端に呪詛を浮かべるのです。そうして一切手を汚すことなく、数多の命を葬りさって参りました。初めて死の言葉を口にした日の夜、私は激しい自己嫌悪と恐怖心に襲われました。己の手に魔物の黒ずんだ血がこびりついている気さえ致しました。ですが、回数を重ねるごとに罪の意識は薄れて行きました。慣れとは恐ろしいものです。己が掻き消した命に向けて切る十字架は、いつしか形ばかりのものと為って行きました。他の命をこの手に鷲掴んで握り潰す術も、また、その潰れてしまった命に息を吹き込む術も私は持ち得ておりました。腕力や知力とは一線を画した、絶対的な優位性。それは麻薬にも似た快楽を私に覚えさせました。それは徐々に、それでいて確実に、私の精神を蝕んで行きました。掌から腕を伝って、血管を通って、心の臓へ。気づいた時には既に骨の髄まで染み込んでおりました。ですからもう、手遅れだったのです。皆様が気づく頃には、私は既に異形のものと成り果てていたので御座います。

扨、そろそろ終わりに致しましょう。これからの皆様の旅路に、幸多からんことを。

(130302)



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