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魔王が復活したらしい。そして、魔王を倒すために伝説の勇者の子孫が集められたらしい。そして俺は、どうやら勇者の子孫らしい。全てにおいて伝聞推量な辺りに何とも胡散臭さを感じるが、王宮に招かれ国王直々に命を下されたのだから嘘ではない、はずだ。
王宮からは神官が一人派遣された。神学校を主席で卒業した青年で、回復はもちろんのこと剣術の心得もあるらしい。顔合わせで現れた人物は自分とさほど変わらない年齢の青年で内心かなり驚いた。よろしくお願いします、と会釈するのに合わせて切り揃えられた髪が揺れる。大臣がしきりに褒めるからさぞ人格者なんだろうと思っていた。思って、いた。

「勇者さーん、勇者さーん。生きてますー?」
少なくとも、地に伏して荒い呼吸を繰り返すパートナーの傍らで平然とドーナツを頬張るような人間だとは思わなかった。旅を始めて分かったのだが、人格者どころではなかった。人格破綻者だった。まず回復をしない。戦闘に参加しない。しまいには俺を殴ってレベルアップした。魔物が裸足で逃げ出す外道っぷりだ。出会って一ヶ月が経ったが、未だに肩に掛けた剣を抜いた姿を見たことはない。実は弱いんじゃねえの、と揶揄したところ、「失礼ですね、そんなことないですよ」と魔物の集団を禁呪で一掃されたので、以来強く出れないでいる。しかし禁呪使う聖職者ってどうなんだ。モグリじゃないのか。

「お前さ、せめて手を差し伸べるとかしろよ!」
「あっ、すみません…全く起き上がらないのでてっきり地面フェチか何かかと…」
「何でだよ!」
「そんな大きい声出すと傷に響きますよ」
仕方ないですねえ、と差し伸べられた手を取って立ち上がると、体の節々が痛んだ。神官と旅をしていて生傷が絶えない異常事態に慣れつつあるのが悲しい。相変わらずドーナツを食べている神官は、これでいて容姿も無駄によいのだから世の中理不尽だ。ああ、家に帰りたい。


「ところで勇者さん、」
「何だよ」
「何でタメ口なんですか」
「え、あ…すみません……」



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