「……腹減った。」 宿屋のベッドにうつ伏せになってポツリと誰にともなく呟く。声に出して言ったことで更に意識してしまい、完全に悪循環だ。遂に腹まで鳴り始めた。畜生、腹減った。
「そんなにお腹が空いたのでしたら、何か簡単なものでもお作りしましょうか?」 読んでいた分厚い本を閉じて、クリフトが返事を促すように首を傾げる。
「…例えば?」 「サンドイッチくらいなら、10分程で出来ますけど…。」
お作りしましょうか?と再び訊ねられ、勢いよく頷く。クリフトはその様子を見てクスリと笑い、分かりました、と本をサイドテーブルに置いて立ち上がった。
「はい、どうぞ。お口に合えばいいのですが…」
クリフトは宣言通りに10分程で戻ってきた。 コトリ、と音を立てて目の前にサンドイッチがのった皿とホットミルクが入ったマグカップとが置かれる。ふわりと食欲をそそる香りが鼻孔をくすぐった。 こんがりと焼き目がついたパンにはきちんとバターが塗られていて、野菜の水気を吸わないようになっている。具はスクランブルエッグとハムとチーズ、レタスにトマト。あれだけの短時間でよくもここまで手の込んだものを作ったものだ。店で出しても申し分ない出来映えのそれを口に運ぶ。その美味しさにある種の感動を覚えながら咀嚼していると、どこか落ち着かない様子のクリフトと目があった。「ありがと、すげえ旨い」と言うとパアッと明るい表情になる。どうやら味を気にしていたらしい。
「そうですか…よかった、」 「うん、嫁に来て毎日作って欲しいくらい。」
何の気なしに言った次の瞬間、「ふぇ…っ!?」と上擦った声がして、続いてガチャン!とすごい音がする。見れば、耳まで真っ赤になったクリフトが、床に落ちたトレイもそのままに立ち尽くしていた。そんな反応をされると言ったこっちも恥ずかしい。
「あ…いや、その、変な意味じゃないから。」 「え、うぁ…す、すみません…。」
できる限り平静を装って返すと、クリフトは更に真っ赤になって俯いてしまった。途端に沈黙が部屋を支配する。 何となく落ち着かなくなり、目の前の新しいサンドイッチに手をつける。次いでマスタードの瓶に手を伸ばすと、クリフトの目が少し見開かれた。
「ソロさん!それ、タバスコの瓶です!」 「え、あ、おわっ!」
反射的に手を離してしまい、瓶が滑り落ちる。 本日二度目のガチャン!という音が部屋に響き渡った。
(110514)
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