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「勇者さんパース。」
間延びした声と共に放られた何かがゆるくカーブを描く。反射的に腕を伸ばすと、手のひらに綺麗に収まった。瞬間伝わるひやりとした感触に驚く。冷たさの正体は缶飲料だった。オレンジのイラストには見覚えがある。ロスに限ってまさか僕にくれるわけでもあるまいし、どうしろと。手中の缶と今し方それを寄越した人間とを交互に見ると変なものでも見るような顔をされた。

「あげますよ、それ。」
カシュ、と軽い音をさせながらロスが言う。その音がプルトップを押し上げた音だと気づくのにそう時間はかからなかった。うっすらと湯気が出ているそれは遠目にも温かそうだ。お前何で自分だけ温かいの飲んでんだよ!口から出かかった言葉を飲み込む。そもそもロスが何かをくれること自体珍しいのでありがたく受け取っておくことにした。

「よく振ってくださいね」
「え?あ、うん。」
底の方に果汁が溜まるって言うもんなあ、と思いつつしゃかしゃかと缶を振る。いつもなら絶対そんな忠告してくれないのに、今日のロスはやたらと親切だ。

「でも、何でいきなり奢ってくれたんだよ。今までそんなこと無かったのに。」
気になって訊ねると、きょとんとした顔で瞬かれた。直球過ぎたかもしれない。機嫌を損ねただろうか、と不安になったが、ロスは全く気にしていないようだった。
「ああ、それ、おまけしてもらったんですけど飲めそうになくて」
「確かに二本は多いかもな」
「いやまあそれもあるんですけど、」
「けど?」
「俺、炭酸飲めないんですよ」
「……へ?」
ちょっと待てこいつ今しれっと何言った?押し上げかけたプルトップに変な力が入る。「だってあれ、何か口の中ちくちくするじゃないですか」とロスが続けた矢先、缶からジュースが吹き出した。


「それに炭酸ってベトベトするじゃないですか」
「ベトベトするから何!?」

(130204)



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