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目の前に、菓子の類が山を成している。大半は女子から貰ったもので、既製品と手作りが半々。曽良の机は、というか曽良の机だけ、さながらバレンタインの様相を呈していた。「…ハロウィンって何だっけ」鬼男が呟くと、それまで無言で菓子を食べ続けていた曽良が顔を上げる。「知らないんですか」「いや、知ってるけど」「そうですか」再び菓子の山へと視線を落とす曽良を、鬼男はどこか微笑ましい気持ちで見ていた。小動物の食事シーンを愛でるぐらいの感覚だった。
放課後の教室は閑散としていて、二人の他に生徒はいない。

ふと曽良の手が止まる。身を乗り出して彼の手元を覗き込むと、アイシングで顔が描かれたジンジャークッキーがちょこんと収まっていた。曽良は、神妙な面持ちでクッキーを見つめている。
「あれ、曽良って、生姜苦手だっけ。」
生姜焼きとか、ジンジャーエールとか、普通に飲み食いしてなかったっけか。記憶の糸を手繰り寄せながら、差し出されたプレッツェルの袋に手を伸ばす。ぱき、と噛み砕くとカボチャの風味が広がった。期間限定だというそれは、甘すぎなくて美味しい。

「いえ、好きですけど。」
「けど?」
「……顔がついてると、食べにくくないですか。」
手元のジンジャークッキーを見つめる曽良は、依然として神妙な面持ちのままでいる。

(121029)



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