小説 | ナノ





洞窟に足を踏み入れると、ひやりとした空気が肌を撫でた。構わず奥へ奥へと進んでいくと、ぽかりと開けた場所に出る。広くて静謐で、とにかく生活感のない空疎な空間。そんな中で、目当ての人物は岩肌に凭れかかって規則正しい寝息を立てていた。近づいてみても、起きる気配は全く無い。闇の魔導士がそんな無防備でいいのだろうか。
「シェゾ、シェーゾー、」
名前を呼びながら体を軽く揺する。眉間に皺を寄せ、うう、と小さく声を漏らしたかと思うとうっすらと目が開いた。
「シェゾ、トリック・オア・トリート。」
「………アルル?」
依然として眠そうな表情でゆるりと首を傾げるシェゾは、今にも夢の世界へ戻っていきそうだ。「うん、お菓子ちょうだい」と右手を突き出すとスローな動きで首を振られる。せめて喋ろうよ。僕が帰ったら、また寝る気でしょ、君。

「じゃあいいよ、シェゾ貰うから。」
目線を合わせるように屈んで、満面の笑みを浮かべてみせる。眠そうな目できょとんとしていたのも束の間、意味を理解した彼に、バカか!と普段より幾分荒い口調で怒鳴られる。
うん、真っ赤な顔じゃぜんぜん怖くないよ、シェゾ。おはよ。

(121029)



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