ハロウィンというのは彼にとってバレンタインとほぼ同義であるらしい。「何故か女子がこぞって菓子をくれるイベント」程度の認識なのだろう。
「はい、ハッピーハロウィン。」 小さな紙袋の中には綺麗に包装された箱が一つ。ハロウィンに因んでオレンジと黒、紫を基調としたラッピングは、女の子が好きそうだと思った。うん、女の子が。 「ありがとうございます」と受け取った曽良の表情は何一つ変わらない。そもそも期待していない。 「開けていいですか」「どうぞ」と端的な会話を経て、白く細い指が丁寧に包装を解いていく。中から出てきた小粒のチョコレートを摘み取って口に運ぶのを、じっと見ていた。曽良の所作は一つ一つが無駄なく美しい。イケメンって得だよなあ、何しても絵になるもん。咀嚼する曽良の目元が微かに緩む。普段より幾分柔らかなその表情を引き出すのは自分ではなくて、彼の前に鎮座する菓子だ。それって、何か。 「……妬けるなあ。」 思わず呟くと、切れ長の目がすっと細められる。長い睫毛が目元に影を落とした。 「嫉妬するのは自由ですけど、」 程なくして喉が上下する。二つ目のチョコレートを口に運びながら曽良が口を開く。 「僕は貴方からしか、受け取ってないですよ。」
さて、ハロウィンというのは、彼にとってバレンタインとほぼ同義であるらしい。
(121028)
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