小説 | ナノ





「下脱いで」
「………は?」

昼下がりの宿屋の一室。
思わず間抜けな声を上げた俺に、非は一切無いと思う。断じて。

長年の奴隷生活で王宮慣れしていた体は随分と逞しくなったが、それだって戦闘には特化していない。慣れた手つきで魔物にダメージを与えていくアベルの横で、生まれて初めてナイフを生き物に向けた。飛びかかってくる魔物を避けて、隙を見て手に持ったそれを突き立てる。手に伝わる感覚は、正直気持ちのいいものではなかった。
案の定怪我をして、カジノが有名な町にも関わらず一直線に宿屋へ向かう。ちょっと待ってて、と小さな袋を持ってアベルが出ていったのが10分程前。戻ってきた彼の手には小型の片手鍋と包帯が収まっていた。「何だよそれ」「何って、薬草だけど」という会話を経て中身が見えるよう傾けられた鍋から覗くどろりとしたケミカルな緑色のそれは、およそ食用とは思えなかった。

「薬草って、食うもんじゃねえの?」
「そりゃ食べれるけど。患部に直接塗った方が効くよ。」

そして、冒頭の台詞である。俺に非はない。微塵もない。

「だってヘンリー、自分で包帯巻けないじゃないか。」
「うっ、」
「面倒だからもう脱がすよ。」
「ちょっ、待て、」
やれやれと言わんばかりの表情でズボンに手をかけたアベルを必死に押し止める。別れて数日しか経っていないのに目蓋の裏に浮かぶマリアの上品な笑顔が恋しい。
誰か、今すぐこいつに常識をやってください。

(121009)



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