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「……えーっと、あの、ソロさん?」
「うるせえ喋るな」
横暴な発言に一瞬頭がついていかない。いえあのいきなり後ろから抱きついてきたのは貴方なんですけれども。ていうか私、夕飯の準備中なんですけれども。海老の殻剥いてる最中なんですけれども。
喉元まで出掛かった言葉を全て飲み込んで視界の左側を占めている鮮やかな青緑色を見遣る。兜を取っているのは彼なりの配慮なのだろうか。何にせよ育ち盛りの17歳男子が背中に引っ付いているこの状況は、重いし暑苦しいし海老の殻は剥きづらいし他人が見たら変な誤解は受けそうだしで何一ついい事が無い。後、項の辺りにかかる吐息や肌を掠める毛先が擽ったいを通り越して痒い。
一体どうしたんだこの人は。台所に立って料理をする自分の姿が、今は亡き母親を彷彿とさせるのだろうか。だとしたらどうしよう、全然嬉しくない。
はああ、と深く息を吐くと、何を思ったのか肩口の辺りに顔を埋められた。本当に何なんだ。人肌が恋しくなる季節にはまだ早いだろうに。竹串で海老の背わたを取りながら心の中で呟く。現場の生臭さも相まってしんみりとした空気には程遠い。ああ、肩が痛い。
一向に離れようとしないどころか、腰に回された腕に込められる力は心なしか強くなっている。石鹸で丁寧に手を洗ってから肩口に乗った頭を撫でてみたが、別段怒られもしなかった。可愛いところもあるじゃないですか、などと言った日には拳が飛んできそうなので無言を貫いておく。沈黙は金なり。至言だ。
圧し掛かる青緑は相も変わらず離れる気など塵ほどもなさそうだ。火も包丁も迂闊に使えない状況下、神学校首席卒業の頭脳は専ら献立の再構築に使われていた。
マリネとサラダ、サンドイッチぐらいが無難だろうか。

(121009)



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