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秋に入って一月が経ち、日差しも大分和らいできた午後。グランバニアに生い茂る木々や草花も徐々に秋めいてゆく中で、庭園へと繋がるテラスでのアフタヌーンティーを提案したのは、他でもないアベルだった。
白い陶器のプレートには、ほんのりと湯気を立てるアップルパイと添えられたアイスクリーム。グランバニアで最近人気の店らしく、決まった個数しか販売されないのだと語るビアンカとタバサの剣幕に押され気味になりながらレックスと二人で店に赴いたのはつい30分前の出来事だ。突然訪れた二人に店の主人は驚きを隠せないようだった。王族直々にケーキを買いに城下町を訪れるなんて、きっとここを除いてないだろう。いつだってどこだって、女の子は甘いものに弱くて、男は女の子に弱い。
元気よく手を合わせてからフォークに手を伸ばしたレックスとタバサは、早々にプレートを空にして、チロルが寝そべっている日向の方へと駆けて行った。芝生の上でチロルとじゃれ合うようにしてはしゃぐ子供たちを見つめる二人の表情は、どこまでも優しい。

「ねえ、アベル。ずっとこんな日が続けばいいわね。来年も、再来年も、ずっと。」
プレートと揃いの白いティーカップには、目の覚めるような真紅が並々と注がれている。滑らかな水面に角砂糖を落としながら徐にビアンカが口を開くのに、アベルは口元へ運びかけたフォークを持つ手を止めた。突き刺されたフォークに粉々になったパイ生地の欠片と溶けたアイスクリームが、真っ白なプレートを少し汚している。
「そうだね。レックスとタバサは、いつまで付き合ってくれるかな?」
「どうかしら。でも、二人になったらアベルを独り占めできるわね。」
弾かれたように顔を上げると、悪戯を成功させた子供のような、どこか勝ち誇った表情を浮かべたビアンカと目が合う。顔が赤いわよ、お父さん。スプーンでくるくると円を描きながらからかうような口調でそう言って笑う彼女には、どうやら一生敵いそうにない。
「……敵わないなあ、」
「でしょう?」

「おとうさーん、おかあさーん!」
「はやくー!」
「分かった、今行くー!」
口元に手を当てて叫ぶ子供たちにつられるようにしてアベルが叫び返すのに、ビアンカがくすくすと笑みを零す。そよ風を受けた木の葉が、手を取り合って子供たちの元へ向かう二人を見送るようにさらさらと音を立てた。
微かに湯気を立てるティーカップの水面には、花をつけ始めたばかりの金木犀が映って揺れている。

絡む指先は未来の暗示

(120928)



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