小説 | ナノ





私は、神様を知っている。
病気がちでほとんど寝たきりで過ごしていた私に、外の世界を見せてくれた、お転婆な神様だ。
彼女は、この国の王女様だった。元からお転婆な性格だったのが、王妃様が亡くなられてから一層顕著になったという。窓から抜け出して、木に登って、壷や樽を壊して。小さな体にいくつもの擦り傷や切り傷を作ってお城に戻っては、大人たちの手を焼かせるらしい。
見かねた国王様が、彼女の遊び相手を求めるお触れを出したという話を聞いたのは、熱を出して寝込んでいたときだった。自分には縁のない話だ。走ることすら難しい自分に、相手など務まる筈がない。恐らく貴族や役人の子供が選ばれるのだろう。ベッドに横になったままゆっくりと目を閉じた。

私は、神様を知っている。
大人たちの手を焼かせていたお転婆な私に、そのままでいいと言ってくれた、体の弱い神様だ。
彼は、神学校に通っている少年だった。生まれつき病気がちだった彼には、父親も母親もいないという。本を読んで、どんどん知識を蓄えて、たまに学校で授業を受けて。授業はおろか満足に学校に行くことすらままならない状態の彼は、一日の大半をベッドで過ごすらしい。
お父様が私の遊び相手を探し始めたとき、ふと人づてに聞いた彼の話を思い出して直ぐに打ち消した。一緒にかけっこさえできないのに、私の遊び相手になんてなれっこない。どうせ威張ってばかりの貴族や役人の子が来るのだと思うと嫌になって、考えるのをやめて勢いよくベッドへと飛び込んだ。


「あの時は、本当にビックリしたわ。」
眠れないからと理由をつけて入ったクリフトの部屋。必要最低限の家具と本、それから簡素なティーセットしか置いていないその部屋は、何となく居心地がよかった。空になった私のカップに紅茶を注ぎながら苦笑混じりに「私もです」と返した彼には、どうやら話が通じているらしい。
「だって、絶対に貴族か役人の子が来ると思ってたんだもの。」
「私も、縁のない話だと思っていましたよ。」
「なのに来たのは女の子みたいな子だし。」
「………暫く、私の性別勘違いしてましたよね。」
「だって、一人称私だし、声高かったし、私よりお淑やかだったし。」
「淑やかさに関しては今でも姫様に勝てる自信がありますね。」
「あら、私だって今でもクリフトに力で勝てるわよ?」
そう言ってにっこりと笑って見せると、クリフトの口元が微笑んだ形のままヒクリと引きつる。勝てるわけないでしょう、とかろうじて聞き取れるぐらいの声で呟くクリフトを横目で見ながら、湯気を立てる紅茶にミルクを流し込んだ。


私達は、神様を知っている。



(120816)



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