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丁度真上に位置している太陽は、じりじりと身を灼くような熱を放っている。隣を歩く青年は、いつもと同じ長袖の神官服を着ていた。自分と違って彼はただの人間だ、暑いに決まっている。流石に帽子や手袋、ストールは取っていたが、それでも額はうっすらと汗ばんでいた。

「すみません、重い物ばかり持たせてしまって」
「……別に構わん。」
缶詰などの消耗品は、かさばる上に重量がある。そういった物は全て自分が持っていた。この青年に持たせると、危なっかしくて見ていられたものではない。買い出しに行くと言った彼についてきたのは正解だった。自分を含め9人分の生活用品を纏めて買うのに、一人で全てを運べる訳がない。今だって、自分がこれだけの量を持っていながら、彼も薬草などの細々とした物が入った紙袋を抱えている。一般的な買い物とは、規模が違う。

「…本当に、暑いですね。」
額の汗を手の甲で拭って青年が呟く。髪は汗でぺたりと額にくっついてしまっている。少し先に見えた屋台を指して「何か買ってきたらどうだ」と勧めると、彼はあっさりと頷いて駆けていった。普段遠慮がちな青年にしては珍しい。余程暑かったのだろう。暫くして戻ってきた彼の手には、小さなカップが収まっていた。

「ピサロさんも、いかがですか?」
小さなスプーンに掬って差し出された一口分のアイスクリームからは、白く冷気が出ていた。甘いものはあまり好きではなかったが、にっこりと笑う青年を無碍にもできず、差し出されるがまま口に含む。案の定、冷たさと共に甘ったるいバニラの香りが広がった。

「…………甘いな。」
「アイスクリーム、ですからねえ。」
眉を顰めて漏らした言葉に「一応、一番甘さを控えてあるものを選んだんですけど。」と苦笑した彼は、確か甘い物が好きではなかったか。訝しむような表情を見て取った青年が、きょとんとした顔で、さも当然とばかりに「だってピサロさん、甘いの苦手じゃないですか。」と続けたのに思わず目を見開く。別段隠そうとした覚えもないが、表立って言った覚えもない。表面をスプーンでつつきながら「見てれば分かりますよ。」と言った彼は、少し誇らしげな顔で微笑んでいた。

「今度は、甘くないのにしましょうか。」
容赦なく照りつける日の光と青年の体温で、容器に入ったアイスクリームは早くも溶け始めていた。とろりとしたそれを少しずつ口に運びながら青年がぽつりと呟く。

どうやら、今度があるらしい。

(120808)



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