最近、毎日夢を見る。夢を見ることは別段珍しいことではないけれど、ここ数日は少し事情が違った。毎日、連続した夢を見る。夢の中でも同じように時が流れて、目覚めた時一瞬どちらが夢でどちらが現実なのかが分からなくなるような。そんな、夢を見る。
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夢を見始めた最初の日。気づけば山奥の小さな村にいた。そこに住む人々に警戒と好奇が入り雑じった目で見られたのは記憶に新しい。自分の服は、かつて夢の世界をさ迷っていた頃の原色を基調としたそれで、ここも夢の中なのだろうかとふと考えた。そして、目が覚めた。
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その日の夜、布団に入って十数分。眩しさに目を開くと、昨日と同じ場所にいた。村の人々は昨日よりも友好的で、「こんな辺鄙なところに迷い込んで大変だったろう、ゆっくりしていけばいい」と宿の空き部屋を貸してくれた。日が高いうちから休む気はなかったし、ここで寝てしまうと次に目を覚ました時にはレイドックの自室のベッドに戻っているような予感がしていた。まだ、この世界にいたかった。 宿を出て村の奥まったところへと歩を進める。池のほとりに、緑色の髪をした自分と同じぐらいの年であろう少年がいた。人の気配を察したのか、ふと少年がこちらを振り返る。顔が見えそうなところで、目が覚めた。
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次の日の夜、目を開くと、少年が丁度振り返ったところだった。視界に映る初めて見る顔に少なからず驚いたのか、その目は丸く見開かれていたが、整った顔だった。不意に彼が口を開く。紡がれた言葉に、今度は自分が目を丸くする番だった。
「お前、今、夢を見てるんだろ?」 「俺は、」 日常生活では使わない、夢の世界だけの一人称。自然に口をついて出たそれに、ここが現実の世界でないことを思い知らされるような気がした。
「布団に入って、眠って、気づいたらここにいた。そうだろう?」 「何で、それを、」 「俺も、」
「俺も、同じだからだよ。」 ――ここは、夢の世界なんだ。 そう言って哀しそうに微笑む彼が、網膜に焼き付いて離れなかった。
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「現実ではこの村は滅ぼされて、存在しない。ここにいる人々だって、誰一人生きてはいないんだ。ここは、俺の思い描いた理想の世界なんだよ。」 布団に入って目を閉じると、当たり前のように始まる会話。何でお前がここにいるかはわかんねえけど、と続ける彼は、それでも幾らか嬉しそうだった。でもな、と続けた顔が曇る。
「目が覚めれば、俺は独りなんだ。」 自嘲気味に笑う彼は、目覚めてから叶わない世界を思い出して泣くのだろうか。もし、そうだとしても。その涙を拭ってやることも、自分にはできないのだ。彼が今、どこに住んでいるのかすら、自分は知らないのだから。
ゆめとうつつのものがたり
(120604)
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