小説 | ナノ





久しぶりに家を訪れると、家の主はキッチンをパタパタと駆け回っている最中だった。さすがにソロが来たことには気づいたようで、ひょこりと顔を覗かせると「あああごめんね今手が放せなくって!適当に座って待ってて!」と一息に言ってすぐに戻っていく。程なくして漂ってきた甘い匂いにつられるようにして、ソロはダイニングの椅子に腰を落とした。

エイトは、トレードマークの赤いバンダナはそのままに、青いチュニックを肘の辺りまで捲っていた。走る度にひらひらと揺れる黄色のジャケットは椅子に掛けられ、代わりに同じ色のエプロンをはためかせて忙しなく動き回る様子は手際がいいのか悪いのか日頃料理をしないソロにはよく分からない。幸い、自分のパーティーには料理担当が二人もいる。

「料理自体はするんだけど、ケーキは久しぶりで。」
「ああ、それであんなに騒がしく…」
「え、そんなに騒がしかった?」
「割と。」
「久々にしては手際良かったと思うんだけどなあ、」
首を傾げながらも、動かされた手は止まることがない。暫くして完成したらしく、調理器具を流しに置く音が聞こえた。

「ちょっと味見してみてよ」の声に振り向くと、目の前に突き出された白い固まり。反射的に仰け反ったもののよく見れば何のことはない、先程まで粗熱を取っていたケーキにクリームがかかったものだった。味見をするにしても何かもっと別の方法はなかったものか。喉元まで出かかった言葉をスポンジと一緒に飲み込むと、ふわりをバニラの甘い香りが鼻孔を抜けていく。

「結構美味しくできたと思うんだけど、どうかな?」
「ああ、うん。甘い。」
「何それ、褒めてるの?」
「じゃあ程良く甘い。」
「あはは、ありがと……って、ソロ、クリームついてる。」
子供じゃないんだから、と笑いながらエイトがテーブル越しに身を乗り出す。ソロの口の端を指で拭うと、事も無げにぺろりと舐めた。紅茶淹れてくるね、と言い残して立ち上がったエイトが視界から消えた後、ソロは張りつめた糸が切れたように机に突っ伏した。

前言撤回だ。とてもじゃない。甘すぎる。

(120430)



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