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カン、カキン、と剣の打ち合わさる音が四方八方から飛び交う中に、エイトはいた。近衛隊長になったからと言って日々の鍛錬を欠かす気などなかったし、説明があまり上手くない自分が剣捌きを他の兵に教えるには、実践が一番だと思っている。位が上がっても今までと同じように訓練に参加するエイトは、近衛隊の中でも人望が厚かった。

カランカランと鐘が鳴り響いて、鍛錬場に昼食の時間を告げる。それまで激しく打ち付けていた剣を一様に収めて、流れる汗を拭うのもそこそこに食堂へと駆けていく兵士達に、エイトは苦笑を浮かべた。焦らずとも、食事は全員分がお代わりも含めて十分に用意されているのに。鞘に収めただけで放置されている練習用の模擬刀を纏めて立て掛けて、踏み締められて歪に固まった足場を均す。土埃で汚れてしまったタイル張りの床を箒で掃いていると、背後のドアが控え目な音と共に開いた。隙間からちらりと覗いた顔に、思わずエイトの目が丸くなる。そこに立っていたのは、紛れもないミーティア王女、その人であった。

「どうしたんですか、姫。」
「ええとね、本当は食堂で待っていたのよ?でも、エイトったら全然来ないんですもの。そしたら、『隊長は鍛練場にいますよ』って兵士の方が。」
「すみません、わざわざ出向かせてしまって。何か御用でしたか?」
問い掛けるとミーティアは、むっとした表情になる。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか、と焦るエイトの鼻先に指を突きつけた。
「二人の時ぐらい、昔みたいにお話ししたいわ。そんな他人行儀の話し方じゃなくて。」
「……皆が来たら、敬語に戻すからね?」
回りを見渡して他の兵がいないことを確かめてから口調を幼い頃のように砕けたものに直すと、ミーティアの顔がパッと輝いた。階段の段差に腰掛けて後ろ手に提げていたバスケットを膝の上に置く。「エイトと食べようと思って、包んでもらったの」と言いながら開いた中には、サンドイッチが詰まっていた。
王の話、今ピアノで練習している曲の話、最近読んだ恋愛小説の話。くるくると表情を変えながら話すミーティアに相槌を打ちながら、サンドイッチをつまむ。時間は飛ぶように過ぎていった。

カランカランと昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響いて、「あら、もう終わり?」とミーティアが口を尖らせる。兵が入ってくるのを見て不満そうな顔を引っ込めるとスカートの裾を手で払って立ち上がった。

「続きはまた、」
「ええ。練習頑張ってね、エイト。」
そうだわ、とふと思い付いたようにエイトの耳元に顔を寄せる。何かを囁いた瞬間「なっ…!」と顔を赤くして振り返ったエイトに悪戯っ子の笑みを浮かべて、ミーティアは戸の向こうへと消えた。


『今夜は、部屋に鍵をかけないでおくわね。』


(120316)



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