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今日は、疲れた。
新しい町を目指す道中、魔物と出会う回数は多く、どれも強かった。いつもなら攻撃と少しの回復で事足りるのに、今日は大半が補助と回復に費やされた。底をついた魔力を無理矢理聖水で引き出して使い続けるのには限界がある。肉体的にも、精神的にも。
深く息を吐いて、目を閉じる。襲ってきた眠気に抗うことなく微睡んでいると、肩を緩い力で揺すられた。うっすらと目を開けると、ぼんやりと蕩けた視界に翠が滲む。数度瞬いて、クリアになった視界に映り込んだのは、予想と違わないソロの姿だった。それにしても、何故。

「どうか、されましたか?」
「クリフト、ベッド入れてくれないか?」
寒くて死ぬ、凍え死ぬ、マジ無理。と呟くソロの声は、少し震えている。今日はそんなに寒かっただろうか。ダメだ、頭が働かない。
「いいですよ、」
狭いと思いますけど、それでもよければ、と続けるより早く、掛け布団を捲ってソロがベッドに乗り上げる。ギシリとスプリングが悲鳴を上げた。男子が二人寝るように作られたものではないから、当たり前だ。「うわ、あったけえ」と声を漏らしたソロの手は確かに、氷のように冷たい。一つしかない枕をソロの方に押しやって、腕をこちらに伸ばすよう要求する。暫くして意味を理解したのか、意外そうな表情を浮かべたソロに気づかない振りをして、クリフトはソロの二の腕に頭を乗せた。
「何、どしたの、お前」
「このほうが、あったかいでしょう……嫌でしたか?」
「いや、全然嫌じゃないけど。むしろ歓迎だけど。」
「じゃあ、いいじゃないですか」
ふわあ、と欠伸が漏れる。呂律が怪しくなってきた。もう起きていられそうにない。今なら、何を言っても「寝ぼけていて覚えてない」で済ませられるんじゃないか。うん、多分、だいじょうぶだ、

「たまには、私だって甘えたいんですよ」
言い逃げは、少し卑怯だったかもしれない。きっと慌てるだろうソロの顔を思い浮かべて、クリフトはゆっくりと目を閉じた。今夜は、よく眠れそうだ。




『たまには、私だって甘えたいんですよ』
頭の中を先程の台詞がぐるぐると回っていた。爆弾を投下した張本人は、ソロの腕の中ですやすやと寝息を立てている。
「言い逃げしやがって、畜生。」
背中に回した手に力を込めると、腕の中のクリフトが擽ったそうに身を捩った。今夜は、眠れそうにない。

(120313)



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