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風呂から上がって部屋に戻ると、クリフトはベッドに腰掛けて本を読んでいた。珍しく素足のままで足を揺らしながらページを捲る姿はどこか新鮮だ。本から顔を上げて「早かったですね」と微笑んだクリフトの顔は、まだほんのりと上気している。
衝動的に肩を掴んで後ろに押すと、クリフトはいとも簡単にベッドに沈んだ。肩に掛けていたタオルが床に落ちるのも構わずにベッドに乗り上げて、きょとんとした表情で見上げるクリフトの手から本を取り上げる。読んでいたページに栞を挟んで、備え付けられたサイドテーブルに置いた。ついでに靴も脱ぐ。そうしないと、ムードとか情緒とか、そういった類いのものを一切理解しないクリフトに、行儀が悪いと叱られるのは目に見えていた。

「ソロさん、どうしたんですか?」
問い掛けには答えずに、体を更に近づける。すると、それまで首を傾げてこちらを見ていたクリフトが、にこりと笑って腕を伸ばした。
自分と比べて華奢な腕が背中に回る。そのままぎゅう、と力を込められて、思考が停止した。風呂から上ってさほど時間が経っていない体は、ほわりと温かい。乾きっていない髪が首に当たってくすぐったかった。至近距離からするシャンプーの香りに頭がくらくらする。自分も同じものを使った筈だというのに、こうも違うものか。
くすくすと笑う声と共に、「こういうこと、私以外にしたら駄目ですよ」という言葉が降ってくる。一瞬の期待は、その後に続いた「いくら戯れでも、女性にしたらいけませんからね?」という一言で打ち砕かれた。つまり、悪戯だと思われているのだ、クリフトには。この神官は、自分に向けられた好意に対して、素晴らしく鈍い。
ここまでしても気づかないというのなら、一体どうすれば、俺の気持ちが伝わるのだろうか。もどかしさを感じながら、感情に任せて首筋に吸いつくと、クリフトは戸惑ったように身を捩った。強く吸ってから離すと、唾液が細く糸を引く。服の袖で首筋についたそれを拭うと、吸いついた箇所は内出血して赤くなっていた。不健康な程に白い肌に、赤い痕はよく映える。くすぐったいですよ、と笑うクリフトは、絶対に俺の考えなんて分かっていないんだろう。

(120208)



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