窓から射し込む日の光に、マーニャは思わず目を細めた。二日酔いのせいで絶え間なく襲ってくる鈍い頭痛にげんなりしながら部屋を出てダイニングに向かう。クリフトと「お酒も大概にしてくださいね」「はいはい」と最早お決まりとなった遣り取りを経て、出された錠剤を水と一緒に流し込む。そんなにすぐ効果が出るわけが無いと分かっていても、幾分か痛みが和らいだ気がした。 この後そのままティータイムに突入するのも、お決まりになりつつある。今日は、甘いものが飲みたい気分だ。
「クリフトちゃんのクッキーと紅茶ってほんっと美味しいわよねえ。」 「ありがとうございます、そう言っていただけると作った甲斐があります。」 ティーポットを手にして佇む姿が様になっている辺り、さすがは城付の神官といったところか。空になったカップをソーサーに置くと、すかさず紅茶が注がれる。紅茶の種類に詳しくないのでよく分からないが、今日のはミルクティに適した茶葉らしく、ミルクで淹れられている。まあ茶葉が何であろうと美味しいことに変わりはないのだが。ポットの口から垂れた雫をナプキンで拭う仕種は手慣れていた。
頬杖をついたまま、マーニャは自分のティーカップに角砂糖を落とした。ぽちゃん、と水音がして水面に波紋が広がる。香り付けに添えられたシナモンの枝で顔を指すと、向かいの椅子に腰掛けたクリフトは、口元の笑みはそのままに少し首を傾げて見せた。そういう仕種が一々似合うところが腹立たしい。
「クリフトちゃんはさあ、あの子が好きなんでしょ?」 視線を窓の外に移動させると、つられるようにして顔が動く。マーニャ曰く《あの子》を視界に入れたらしいクリフトの表情が甘ったるいものへと変わった。外では、アリーナとソロが組み手をしている。
「ええ、そうですね。」 動揺するかと思いきや、眉一つ動かさない。嫌みなまでに完璧な笑顔は見ていて崩したくなる。顔を赤らめて、涙を浮かべて、悔しそうにこちらを睨むぐらいがいい。その方が年相応で可愛げもあるというものだ。全く持って、可愛くない。
「あんなガキのどこがいいのよ?」 「どこが悪いんです?」 間髪入れずに返された言葉に、一瞬頭が追いつかない。盛大に惚気られたことが分かってから、マーニャは憮然とした表情で目の前の男を見た。
「…あー、ハイハイ。ごちそうさま。」 「お粗末さまです。」 その言葉は、クッキーと紅茶に対してか、それとも惚気に対してか。にこにことした表情からは何も読み取れそうになかった。 本当に、食えない男だ。
猫のようにしなやかで強かな
(120104)
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