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トントン、と包丁が規則的なリズムを刻む。キッチンではミネアとクリフトが年越し蕎麦を作っていた。何でも今年は麺から手打ちらしい。真剣に蕎麦粉を吟味する二人は本職が別にあるとは思えないほどだった。

リビングでは残された未成年4人が宿題と格闘していた。ライアンとブライ、マーニャは一階で酒盛りをしているし、ピサロはロザリーのところで年を越すらしく数時間前に出ていった。

「もう、分かんないわよー!」
シャープペンシルを投げ出したアリーナがこたつの上のみかんに手を伸ばす。「あ、ずるい!」とソフィアが次いで手を伸ばす。ガシガシと頭を掻いたソロの手元に置かれた問題集はほとんど進んでいない。三人とも成績はあまり芳しくなかった。補習の代わりに出された追加の問題集は今も三人の頭を悩ませている。「終わった人にはご褒美がありますからね」とクリフトが言ったのが3時間前。進まないのを見かねて「終わらなかったら蕎麦のグレード下げますよ」とミネアが言ったのが1時間前。進んだページ数、プライスレス。

「ミネアさん、クリフトさん!私レポート終わった!」
ちゃっかりと自分の分を進めていたらしいシンシアがこたつから抜け出してキッチンへと向かう。「頑張りましたねえ」とハイタッチをしてきゃあきゃあ喜び合うクリフトとシンシアを見て、残された三人は誰からともなく「いいなあ」と呟いた。何が羨ましいかは人によって異なるのだがその辺りはご想像にお任せする。

ミネアが冷蔵庫から取り出したものを見てシンシアの顔が輝いた。渡された皿にはケーキが乗っている。チョコレートでコーティングされたケーキには綺麗な筆記体でシンシアの名前が書かれていた。
「わあ、すごいですねこれ!」
「クリフトさんと一緒に作ったんですよ。」
「本当は、全員分あるんですけど……日の目を見ることはなさそうですね。」
リビングを見遣ったクリフトが苦笑する。もごもごとみかんを頬張っていた三人が目を逸らした。ミネアが溜息を吐く。

「もう、早く取りかからないと、天麩羅減らすわよ?」
「ええー、ミネアさんのケチー!」
「さっさとやらないと、蕎麦にハバネロ入れますよ?」
困ったような笑顔のまま首を傾げて、クリフトが静かに呟いた。先程までとの声のトーンの差を感じ取った三人が食べかけのみかんもそのままに慌てて机に向かう。声に抑揚が無い辺り本気だ。あれはマズい。カリカリとシャープペンシルが紙を擦る音を聞いて「じゃあ、蕎麦を茹でましょうか」と言ったクリフトの声はいつもの穏やかなものに戻っていた。

年が明けるまで後30分弱。必死で問題集に向かう三人が真っ当な蕎麦を食べれるかどうかは、キッチンにいる三人のみが知ることである。


(111231)



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