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「マネマネと本物の区別、ですか?」
自室での読書は、突然の訪問者によって中断させられた。ベッドに腰を落として足を揺らしながら頷いてみせたのは、主君のアリーナだ。今日の戦闘で何度も戦ったマネマネは、能力を含め対象そっくりに化ける魔物だった。傍目どころかじっくりと観察しても区別がつかない形態模写は、旅人にとって脅威となる。

「うん。だって私たちは向こうが攻撃してきて初めて分かるのに、クリフトはいつも先に攻撃するでしょ?間違ってマネマネ回復しちゃうこともないし。」
「…見ると、案外分かるものですよ。」
「本当に?」
「ええ、割と。ああこれは本物の姫様だな、とか、」
疑うように眉を寄せたアリーナに、クリフトはわざとらしく言葉を区切ると、ずい、と顔を寄せた。深い青色をした目にアリーナの顔が映り込む。どこか見定めるような視線がむず痒くて目を逸らすと、形のいい唇が耳元に寄せられた。

「……これは、姫様のフリをしたソロさんだな、とか。」
お互いの顔がくっつくのではないかというぐらいに近づいたクリフトが、目を細めて口元に綺麗な弧を描く。普段とは違った悪戯が成功した子供のような笑みに、相手は驚いたように後ずさって目を見開いた。

「…いつから気づいてた?」
「初めから、です。口調を真似したぐらいじゃ、私の目は誤魔化せませんよ。」
「じゃあ、その場で言えばいいじゃねえか。」
「少しぐらいいいじゃないですか、先に仕掛けたのはそっちですよ?…もう少し練習してから来てくださいね、姫様。」
いつもアリーナにするように髪を優しく梳くと、アリーナの姿のままのソロが顔をしかめた。ぼん、と軽い音がして、辺りに白煙が立ち込める。噎せこんだクリフトを見て「ざまあみろ」と笑い混じりに言った声は、ソロのものだった。


「やっぱりアリーナの見分けはつくんだな、お前。」
「そんなことないですよ?」
「嘘言え、アリーナの姿したヤツばっか狙ってたくせに。」
「それは攻撃力が高い上に会心の一撃が出やすいからです。早く倒さないと危ないでしょう?……そんなに拗ねなくても、ソロさんもちゃんと分かりますよ。」
「別に、拗ねてなんか、」
「違うんですか?」

微笑みながら首を傾げたクリフトに、ソロは思わず言葉に詰まった。全てを分かりきった上で、面白がっている。何故かは分からないが、ソロはこの顔に弱い。日頃人をからかったりしないクリフトのこんな表情を見れるのは自分だけだ、と思う心がそうさせるのかもしれない。大人びているようでも、やはり自分と同年代なのだ。ああ、畜生。可愛い。

弛みきった顔を隠すようにクリフトの肩口に顔を押し付けて、小さな声で「違わない」と呟くと、「よく言えました」と頭を撫でられた。どこか得意気な顔が可愛い。物凄く可愛い。

けれど、何だか上手くあしらわれたような気がしてならない。


全ては君の思うまま!

(111205)



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