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雨は、嫌いだ。
じめじめとした空気は気分が落ち込むし、髪も上手く纏まらない。傘に収まりきらなかった鞄の角やお気に入りの靴だって濡れてしまう。だから、どこからか落ちてきた雫が額に当たった時、思わず空を睨みつけてしまったのも無理のないことだった。そんなアリーナに構うことなく、雨粒は重力に従って落ちてくる。
朝のニュースによると降水確率は80パーセントだった。傘を持った方がいいですよ、というクリフトの助言を大丈夫!と突っぱねた自分が恨めしい。立ち止まっているうちに先程より強くなった雨を凌ぐ為、アリーナは近くの雑貨店の軒先に駆け込んだ。今日は定休日らしく、closeと書かれた木の札がガラス戸に掛けられている。濡れないように足元に鞄を置いてからスポーツタオルを取り出す。濡れてしまった髪を拭いて、どうしようかと降り止むどころか強くなっている雨を見た。

「あ、アリーナ!」
耳に飛び込んできた聞き慣れた声に、アリーナは顔を上げた。革製の鞄を傘代わりにしたソフィアが手を振りながら駆けてくる。隣に並んだソフィアの髪は、雨水を吸い込んでぺったりと垂れていた。髪がストレートになったソフィアは、ソロにそっくりだ。制服のシャツも透けてしまっている。スポーツタオルを渡すと、数回瞬いた後に「いいの?」と首を傾げた。それに頷くと、髪を拭き始める。
しばらく二人で話していたが、雨は一向に弱まる気配がない。「このまま走って帰ろうかな、」とソフィアが呟いた。


「…お前ら、何やってんの?」
呆れたような声に二人して顔を上げると、声色と違わぬような呆れた顔をしたソロが傘を差して立っていた。透明なビニール傘に雨が当たってパラパラと音を立てる。手に持った空色の傘はソフィアの為のものだろう。

「ね、アリーナ、一緒に入ろうよ。」
「あー、それな。アリーナ、お前、鞄の内ポケット見てみ。」
「私、内ポケットには何も入れてないよ?」
「いいから。」

首を傾げつつも言われた通りに内ポケットを探ると、手に何かが触れる。取り出してみると、オレンジの折り畳み傘だった。
『年上の言うことは、素直に聞くものですよ』と書かれた紙がテープで貼り付けてあるのに、アリーナは目を丸くした。整った筆跡は、クリフトの字だ。胸の奥が何となくくすぐったい。思わず頬が緩んだ。

「クリフトさん、何でもお見通しだねぇ」
覗き込んだソフィアがにやにやと笑うのに「ホントにね」とだけ返してアリーナは傘を開いた。目の覚めるようなオレンジが広がる。
一足先に軒先から飛び出したソフィアを追うようにして、アリーナは歩き出した。

「アリーナの傘、太陽みたいだね。」
「じゃあ、お前は空か?」
「それじゃ、ソロは雨ね。」

他愛もない冗談を言いながら、三人は帰路についた。
雨はしとしとと降り続いている。


(111121)



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