小説 | ナノ





街を歩いていると、クリフトを見つけた。どうやら買い出しの帰りらしく、紙袋を片手に抱えて歩いている。収まりきらなかったらしいバゲットやセロリが袋からはみ出している。代わりに持とうかと、ソロは人の間を縫うようにして駆け寄った。

何の気なしに手首を掴むと、ビクリと肩を揺らして立ち止まる。振り向きざまに嫌悪感を全面に押し出したような表情で、思い切り頬を張られた。パシンと乾いた音が響いた後、じんわりとそこが熱を持ち始める。生理的な涙で景色が滲む。反動で紙袋から転がり落ちたレモンの黄色が、ぼやけた視界に鮮やかだった。
呆然としながら張られた頬を片手で押さえると、クリフトの目が驚きで見開かれる。

「す、すみません!あの、驚いてしまって…!怪我はありませんか!?」

紙袋を地面に置いて、クリフトが手を伸ばす。黒い革の手袋をした一回り小さな手が、確かめるように頬を優しく撫でるのに思わず胸が高鳴った。冷えた革の感触が熱を持った頬に心地いい。両手で頬を包み込むようにして、クリフトはホイミを唱えた。痛みが引いていくのを感じながら、アリーナが以前「クリフトは神学校を飛び級で卒業したのよ!すごいでしょ!」と話していたのを思い出す。飛び級、ということは年上に囲まれて育ったのだろう。突然のスキンシップに慣れていないのかもしれない。いきなり手首を掴んだ自分にも非がある。

転がったレモンを拾い上げると、ありがとうございます、と微笑まれ紙袋が差し出される。拾ったレモンを紙袋に戻しながら、ソロは眉を顰めた。

「クリフト……手首のとこ、何か赤くなってねえか?」
ここんとこ、と指で袖と手袋の間を指す。元々肌が白いこともあって、そこには湿疹のような赤い斑点が簡単に見て取れた。

「本当ですね…、何かにかぶれたんでしょうか。」
首を傾げてみせた後、捲った袖をもとに戻した。「薬を塗ってみます」と言い残し、宿屋の方向に駆けていく。結局荷物を持ち損ねたことに気づいたのは、クリフトが建物の角を曲がって見えなくなってからだった。


宿屋に戻ると、クリフトは石鹸で丹念に手を洗っていた。手首に目を向けると、先程見えた湿疹のような斑点は跡形もなく消えていた。


気付かなければこんなに幸せ

(111116)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -