小説 | ナノ





すっかり秋めいてきたある日のこと。サントハイムの教会に、新しい子供が来た。
神父様に手を引かれて教会の門をくぐった子供は、他の子供たちと一つだけ違うところがあった。
――その子の頭には、うさぎの耳が付いていた。

日曜日の朝は、教会でミサが行われる。パイプオルガンの音と共に、聖歌を歌い始めた子供たちは、いつもと違う声がそこに混じっていることに気付いた。今までに聞いたことのない、高くて澄んだ声。どこから聞こえているのか、ときょろきょろ辺りを見回して親に窘められる子もいた。ミサが終わってぞろぞろと大人たちが教会を出ていっても、子供たちはそこに残ったままだった。皆目的は一緒だった。そのうちの一人が、机を拭いている神父様に声をかけようとした時、奥のドアがキイ、と音を立てた。皆が一斉にそちらを見る。水を汲んだバケツを手に、大勢に見つめられて戸惑っている子の頭の上で、うさぎの耳がひょこりと揺れた。

「……かわいい、」
誰かがポツリと呟いた。

困ったように神父様を見上げるその子に皆の目線は集中している。
「恐がらなくていい。皆、優しくていい子だから、お前の友達になってくれるだろう。」
そう言って頭に優しく手を置くと、子供はおずおずと顔を上げた。神父様のローブをギュッと握ったまま口を開く。弱々しく「あの、よろしく、お願いします、」と言った声は、聖歌の時に聞いた澄んだ声だった。

「……可愛い、」
さっきとは別の誰かが、ポツリと呟いた。


「あのね、私は……」
「僕はね……」
子供たちは順番に自己紹介をした。名前、誕生日、好きなもの――。最初は面食らっていたものの真剣な顔をして聞いていた。最後の子が自己紹介を終えた後、「でも、11人もいるんだもん。そんなに直ぐ覚えられないよね。」と言うと、その子は小さく首を振った。
「大丈夫です。えっと…」
顎に人差し指を当てて考えるような素振りをした後、自己紹介をした順番通りに指をさしながら名前を諳んじる。今度は子供たちが面食らう番だった。一通り言い終えて、「…合ってますか?」と自信無さ気に訊ねる。呆気にとられたような表情で一人の少女が皆の気持ちを代弁したかのように「すごい、」と漏らした。

自分たちと姿の違う者を、大人は忌み嫌い、排除しようとする。しかし、子供たちは違った。親がいけませんと言おうと、学校の教師が難色を示そうと、可愛いものは可愛いのだ。ぱっちりとした大きな目に長い睫、耳に負けず劣らず白くすべすべとした肌、ころころと鈴が鳴るような声。そして何より、耳の上でひょこひょこと揺れる長い耳。どれを取っても、その子は可愛かった。


しゃきりしゃきりと鋏の音がする。細く切った色紙を輪の形にして繋げながら、うさぎだから、やっぱりニンジンが好きなのかなあ?と子供の一人が不意に呟いた。初めて会ってから明日で丁度一カ月になる。誕生日も、年齢も、何も分からない。ただ一つ分かったことは、その子の名前が「クリフト」ということだけだった。




ここで力尽きた。
(111103)



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