豪雪地帯と言われるだけのことはあって、暦の上ではまだ秋なのにも関わらず、その地方では雪がちらついていた。今まで砂漠地方にいたこともあって余計に寒く感じる。 風邪を引くといけないから、と急遽購入された毛皮のコートを身に纏ったミネアとマーニャは戦闘以外馬車の中にいることになった。特にマーニャは元から露出が高かったこともあって、毛皮のコートがあってもやはり寒いらしい。いざという時に戦えなくては困る。対照的にアリーナはいつもと同じ服装で外にいる。体を動かしているせいか大して寒くないらしい。後、ピサロも平気そうな顔をしている。魔族の感覚はよく分からない。
「ひ、くしゅっ!」 背後から控えめなくしゃみが聞こえて、振り返るとクリフトと目が合った。大丈夫か、と声をかけようとするより早く、くしゅん!と再度くしゃみをする。恥ずかしそうにすみません、と苦笑してみせるクリフトの鼻の頭は赤くなっていた。吐き出される息は白い。風邪を引く前に馬車の誰かと変えた方がいいかもしれない。
男性用の防具の中に、防寒に適したものはあまりない。鎧は金属製だから熱を通しやすくむしろ寒さを助長させる要因だし、防寒耐性があるものに限って、クリフトが装備できない。だからクリフトはいつもの神官服を着ている訳だが、見るからに寒そうだ。唯一の防寒具とも言えるオレンジ色のストールは、アリーナの肩に掛けられている。続けざまに出たくしゃみに、横を歩くアリーナが「やっぱりクリフトがしてた方がいいわよ」とストールを解こうとするのをやんわりと手で制して、クリフトが口を開いた。
「ですが、姫様が風邪を引いてしまっては困ります。」 「でも、クリフトが風邪引いちゃうわ。体弱いんだから!」
宿屋でぶっ倒れてうなされていた人物と洞窟の扉を破壊してパデキアを探していた人物のどちらが病弱かと問われれば、間違いなく前者だ。
「じゃあ、命令!ストール巻きなさい!」 焦れったさを感じたのか、アリーナがクリフトの赤くなった鼻先に指を突きつける。命令、と言われれば逆らえない。アリーナの最終手段のようなものだ。観念したらしく、クリフトは渡されたストールを受け取って首に巻き付けた。クリフトも過保護だが、アリーナも大概だ。
ひゅん、と空を切るような音と共に木枯らしが吹き抜ける。それにつられるようにしてクリフトが三回目のくしゃみをしたのと、それまで後ろを歩いていたピサロが肩に掛けていたマントをクリフトに被せたのはほぼ同時だった。
ただの過保護ですね分かります
(111016)
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