小説 | ナノ





カチリ、カチリ、と時計の針が音を立てる。自然に目が覚めた自分は相当この現象に慣れたらしい。シーツが擦れて音を立てるのを聞きながら、いつでも起き上がれるように身構えた。ソロがごろりと寝返りを打つ。顔がこちらに向いたのは好都合だ。

先ず、眉間にしわが寄る。次いでじわり、と目尻に涙が滲む。手がぎゅ、と敷布団のシーツを握りしめる。う、と声が漏れたのとほぼ同時に自分の掛け布団をはねのけた。
脇に手を差し込んで抱き起こす。とん、とん、と一定のリズムで背中を叩きながらもう片方の手で髪を梳いてやると、シーツを掴んでいた手が背中に回された。戦闘時に大振りの剣を振るっている姿からは考えられない、小さい子供のような弱々しい力だった。
日頃人のことを「ザラキ神官」だの「歩く回復アイテム」だの散々こき下ろす癖に、何でこういう時だけ懐いてくるんですかね、と心中で悪態を吐きながらも頭を撫でる手は止めない。肩の部分に涙が滲んで生温かった。



ソロはたまに『夜泣き』をすることがあった。
全てを失い、勇者という重すぎる肩書を背負わされて生きているソロは、日頃全く弱みを見せない。心の奥底に溜めに溜めたそれが堰を切って溢れだすその現象は不定期に訪れた。
夜泣き、と言っても声を上げてわあわあと泣く訳ではない。表情が歪み、声を立てずに泣く。それくらい、と思うかもしれないが、夜中に隣からすすり泣く声が聞こえてくるのは、正直寝づらい。
母親が赤ん坊にするようによしよしと寝かしつけてやれば落ち着くのだが、その場を離れて自分のベッドに戻ろうとした瞬間、再び泣く。まるで本当に赤ん坊のようだ。結局次の朝まで寝かしつける羽目になる。大の男二人が一つのベッドは流石に狭い。


自分がパーティーに加わるまでどうしていたのだろうか。ミントスで宿屋の受付をしているホフマンという青年は、ミントスに来るまでの間、共に旅をしていたらしいが、やはりこの現象を落ちつける役割を担っていたのだろうか。それより前――即ち、マーニャとミネアと三人で旅をしていた時は、二人が何とかしていたのだろうか。


何にせよ、どうにかしてこの現象を落ちつけなければ、おちおち眠ることもできない。神学校にいた時代は2、3時間の仮眠で過ごしていたこともあったが、今はそうもいかない。ただでさえ戦闘で消耗しているというのに、それに加えてあの破天荒なメンバーを説き伏せ宥め賺して纏めなくてはならない。皆が皆一見常識人のようで常識には程遠い。考えながらなんだか胃が痛くなってきた。そもそも、何故この人のメンタルケアまでしなくてはならないのか。こっちが泣きたい。


大体、日頃泣くのを我慢するのがいけないんですよ。何で泣かないんですか、あなたの涙腺は飾りか何かですか。毎回毎回あやして寝かしつけるこっちの身にもなって下さいよ。それでいて起きたら「何でお前俺のベッドで寝てんだよ狭いわボケ」とか言って蹴り出すとか理不尽にも程がありますよ。そりゃああなたの過去は壮絶で私には到底想像できないですけどね、何で一人で溜めこむんですか。確かに私は頼りないでしょうけどね、だからって一人でうじうじうじうじ……ああ、腹が立つ!

思わずした舌打ちは、思いの外部屋に響いた。


喪失は眠りを伴って現れる


(110828)



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