小説 | ナノ





今日は他国の貴族と会う日だった。

外交が大切なのは分かっているけれど、この窮屈な雰囲気はどうしても好きになれない。剣の腕前がどうの、馬術がどうの、と明らかに自慢をしてくる貴族にまあお強いんですのね、と返しながら心中で絶対こいつより私のが強いわ!と悪態を吐いた。
その後も色々と話しかけてくる貴族に微笑みながら無難な回答を返し続けること数時間。ようやく解放されたと思ったのも束の間、自室のドアを開けたところで「姫様、20分後にお稽古の先生がいらっしゃいます」と世話係から非情な一言を投げかけられ、潔くサボタージュ――即ち、サボることを決めた。

そうと決めたら急がなきゃ。パッと壁に掛かった時計を見れば、先生が来る時間まで後10分程しかない。慌ててドレスを脱ぎ捨てて動きやすいワンピースに着替え、タイツを穿く。ハイヒールをブーツに履き替えて、部屋にある唯一の窓へ駆け寄った。
戸を一枚隔てて立っている見張りを警戒しながら、窓の留め金を慎重に外していく。カチリ、という音がして留め金が外れたのを確認して、内側に開いた窓に体重をかけないように気をつけながら木枠に足をかけると、反動をつけて外に飛び出した。音を立てずに一階下のバルコニーに着地すると、スカートの下に忍ばせていたキメラの翼を取り出す。上空に放り投げると、ふわりと浮く感覚の後に体が宙に舞い上がった。

***

サランの町にある教会の窓をコツコツと叩くと、中で本を読んでいたクリフトがこちらを向いた。人員が足りないらしく、クリフトはまだ神官であるにも関わらず、今年からここで仕事をしている。普段会える機会が減ってしまうのは残念だけど、ここにはクリフトを必要としている人がいる、と思うと何だか誇らしい。
何か言われるだろうか、と心配していると、クリフトは咎める様子もなくアッサリとドアを開けた。

「そろそろ来ると思ってました。」
「…え?何で分かったの?」
「今日は姫様が嫌いなマナーと言葉遣いのレッスンの日ですから。」
さらりと言い放ったクリフトは一体どういう記憶力をしているのか。お茶の準備、できてるんですよ。と微笑むクリフトにはきっと一生適わないのだろう。


ほかほかと湯気をたてるミルクティーは、私の好みに合わせて甘めに作られていた。慣れないことをして疲れた体に甘い紅茶がじんわりと染み渡る。頬がじわじわと緩んでいくのが自分でも分かった。
息を吐いてソファーで思い切り伸びをしていると、クリフトが銀のトレイに何かを乗せて運んできた。
コトリ、という音と共に目の前に置かれた皿を見る。まだ温かいそれは、パウンドケーキだった。全体に散っている茶色い葉のようなものは紅茶の茶葉らしい。慣れた手付きでクリームを皿に絞り出すと、「お口に合えばいいのですが、」と言って微笑した。

「クリフトが作ったものが、美味しくないわけないじゃない。私、大好きよ。」
「え、あ…ありがとう、ございます、」
そう言うと何故かクリフトの顔が真っ赤になる。その様子に首を傾げつつ、目の前のケーキを口に運んだ。


日溜まりによく似た愛し方

(110816)



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