小説 | ナノ





パタパタと服の首元を掴んで動かすと、生ぬるい風が入り込んでくる。夏真っ盛りなこの時期、扇風機すらない宿は地獄と言っても過言ではない。部屋の中で壁に凭れかかっている様子は勇者には到底見えないだろう。


「冷たいお茶淹れましたよー。」というのほほんとした声と共に入ってきたクリフトを、生気の無くなりかけている目で見上げる。皆が皆バテている中で、病弱な筈のこの神官は何故かいつもと変わらず元気なままだった。


「なーんであんたはそんな格好してんのよー。」

ぐったりとソファーに沈み込むようにして寝転んでいるマーニャがうんざりとした声を出す。
武器であるはずの鉄の扇は、既に涼しさを得るための道具となっている。扇と形容するにはいささかごつ過ぎるそれは、煽ぐとバサバサと音を立てた。

「これが制服ですから。」

冷えた麦茶を氷を入れたグラスに注ぎながら、汗一滴流さず嫌味な程ににっこりと笑う目の前の神官は、いつもの緑色を基調とした服を着て、この暑い中ご丁寧にオレンジ色のストールまで身に着けている。正直見ているこっちが暑い。視界のテロとはよく言ったものだ。
グラスを受け取ったマーニャが、中身をゴクゴクと一気に飲み干した後、口元を手で拭ってクリフトの方をキッと睨みつける。

「あー!もう!見てるだけで暑いのよ!」

そう叫ぶと、マーニャは「ソロ。あんた、下担当ね」と言い放ってクリフトに向き直った。
にゅ、と伸びた手が制服のボタンにかけられたかと思うと、有り得ないレベルの器用さでボタンをはずしていく。いきなりのことに呆然としているクリフトには目もくれず、ボタンをはずし終えたマーニャは、肩部分の緑色の布を引っ掴むと、思い切り下に引きずり下ろした。下に着ている白い長袖のインナーが露になる。長袖に加えて上着まで着ていたというのに汗一つかいていない。どういう汗腺のつくりしてんだコイツは。
そこまでされてようやく事態を理解したクリフトが「何するんですか!」とベルトの位置までずり下がった衣服に手をかけた。
あまりにも見事な手捌きのせいで忘れかけていたが、そう言えば下を任されたんだった。でも、このままではベルトをはずしている間に上が元に戻ってしまう。
ボタンを留め直そうとするクリフトの両手首を掴んで万歳のような状態にさせる。


「マーニャ、押さえとくから、下よろしく。」

振り向きながら言うと、マーニャは心得たとばかりにニヤリと笑って、ベルトのバックルに手をかけた。抵抗するクリフトなどお構いなしにものの数秒ではずしてしまう。だらりと垂れ下がったベルトの端を掴んで勢いよく引き抜くと、タイト気味だった裾がばさりと広がった。


「うわあああっ!ちょっ、何するんですか!」
「どうせならもう少し色気のある声出しなさいよ。」
「何の話ですか!」
「そっちのが脱がしてて燃えるじゃない。」
「知りませんよ!」

重力に従って地面に落ちようとする服の裾部分を必死で掴んでいる様子は風で捲れ上がるスカートを押さえつける女の子に似ている。ていうか下にズボン穿いてんだからそこまで大仰に反応しなくてもいいんじゃないか。女子かお前は。
クリフトはマーニャ曰く『色気のない声』をあげながら抵抗していたが、力の差には勝てずに数分のうちにインナーとズボンだけになった。それでもまだ長袖長ズボンで見ているこっちとしては暑い。コイツの衣服に半袖やハーフパンツといったカテゴリーはないのだろうか。
マーニャが「もういっそ全部脱がしてやろうかしら」と何やら物騒な事を言い出したので一応止めておく。同じ男としてそれくらいの尊厳は保たせてやりたい。

不意に、それまで不満そうにしていたマーニャが「ああ、そうだ」と呟くと、上着をバサリと放る。受け止めたクリフトに「それ、着ていいわよ」とだけ言うと、グラスに麦茶を注ぎ始めた。いきなりの方針転換に、クリフトは一瞬呆けたような表情を見せたものの、直ぐに慣れた手つきで上着を着ていく。後はベルトを締めるだけ、というところで、マーニャが突然立ち上がった。つかつかと歩み寄ると、またもやニヤリと笑みを浮かべる。次の瞬間、クリフトのズボンを思い切り引き下げた。上着のお陰でパンツが見える事態は免れ、丁度膝下くらいまでのワンピースのような状態になる。赤面して裾を押さえるクリフトに対してマーニャはズボンとベルトを持ったまま「うん、やっぱこっちのがまだ涼しげだわ」と満足そうに頷いた。


「返して下さい!」
「嫌よ、暑苦しいんだもの。」
「外出れないじゃないですか!」
「別にいいじゃない、こうでもしない限り中が見える訳でもないんだし。」

そう言うと裾を掴んで捲り上げる。性別が逆だったら完全にセクハラだ。というか違わなくても十分にセクハラだ。真っ赤な顔で悲鳴をあげるクリフトとニヤニヤしながら更に裾を捲り上げようとするマーニャを見ながら、氷が溶けて薄くなった麦茶を口に含んだ。

…そんなに動いたら逆に暑いんじゃなかろうか。


誰かこの人を止めてください!

*****
暑いと思います。
(110804)



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